SHORT(お題消化 全6)
□連鎖反応
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辺りにはまだ、
惨劇の余韻が立ち込めていた。
「くそ…またあいつだ…」
「ひでえ事しやがる…」
夥しい鮮血が、路面にまで溢れ出ていた。
激しく飛び散った血痕を、覚束無い外灯が照らす。赤い煉瓦を積み上げたセントラルの路地で、軍人達は眉を顰めていた。
そして彼らの傍には、壁に寄り掛かって動かない男。一連の事件の幾人目かにあたる被害者が事切れていた。
そう、肉体を内側から破壊された人間が。
「傷の男…か」
そんな軍人の呟きが、今日も静寂の夜にそっと浮かぶのだった。
連鎖反応
「おっと。まずいとこ見られちゃったな」
まだ、昼間だった。
けれどその通りは道行く人もまばら、一日の内で最も足の短い影が落ちる頃だというのに、薄暗く陰気だった。
セントラルを訪れて二日目の事だった。
その日、名無しさんは見てしまったのだ。
今世紀最大の見世物でも目の当たりにしたかのようだった。
人が、一瞬にして別の人間に姿を変えたのだ。
“彼”の足元には、今しがた殺害された人間がうつ伏せに倒れていた。
中年男性だった“彼”は男を殺すと、綺麗な青年に姿を変え、目前の死体を笑ったのだ。
なんてよく出来た奇術だろう。
「困るなぁ。いつから見てたの?」
胡乱げな口調と裏腹、瞳は楽しそうに笑む。
名無しさんは、そんな青年を正面から見据えた。
「貴方は、彼に罪を被せようとしたのですね」
そう返されるとは思っていなかったのか、青年は意外そうな顔をした。
「……。そうだね。だから目撃者であるあんたに『こっちの姿』見られちゃ駄目だったんだけど」
ゆっくりとした動作で、少し億劫そうに彼女へ身体を向ける。
確かな殺気が、ひんやりと張り詰めていた。