SHORT(お題消化 全6)
□継続
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午後三時頃、二人は野外のカフェを出た。
今日は早めに帰る予定で、エドは名無しさんを家まで送って弟の待つ宿舎に向かった。
少年の姿を見送ると、彼女は踵を返して歩き出した。
特に行きたい場所があった訳ではないらしく、名無しさんは再び川沿いの道に出る。
川原に下りて草の上に座ると、ぼんやりと秋の空を眺めて。
風に吹かれれば、時折草の頭が彼女の肌に触れる。
此処までの道のりで温まっていた身体を冷ます、ひんやりとした秋風だった。
…気持ちがいい。
今この時だけでも、全てのしがらみを忘れていられそうだった。
名無しさんは膝を抱き、穏やかに目を伏せる。
遠くに聴く人の声と、
水と草の匂い。
視界は闇。
急に曖昧にしていた感情や記憶が蘇り、名無しさんは膝を抱く腕に力を込めた。
「こんな所に居たら風邪引くよ?」
すぐ側で、はっきりと聴こえた声が、より鮮明な現実へ名無しさんを連れ戻す。
忘れる筈がない。
自分に掛けられただろう声に、名無しさんはある種の確信を持って顔を上げた。