SHORT(お題消化 全6)

□継続
2ページ/9ページ

午後三時頃、二人は野外のカフェを出た。

今日は早めに帰る予定で、エドは名無しさんを家まで送って弟の待つ宿舎に向かった。

少年の姿を見送ると、彼女は踵を返して歩き出した。






特に行きたい場所があった訳ではないらしく、名無しさんは再び川沿いの道に出る。
川原に下りて草の上に座ると、ぼんやりと秋の空を眺めて。

風に吹かれれば、時折草の頭が彼女の肌に触れる。
此処までの道のりで温まっていた身体を冷ます、ひんやりとした秋風だった。




…気持ちがいい。

今この時だけでも、全てのしがらみを忘れていられそうだった。
名無しさんは膝を抱き、穏やかに目を伏せる。

遠くに聴く人の声と、
水と草の匂い。




視界は闇。




急に曖昧にしていた感情や記憶が蘇り、名無しさんは膝を抱く腕に力を込めた。









「こんな所に居たら風邪引くよ?」


すぐ側で、はっきりと聴こえた声が、より鮮明な現実へ名無しさんを連れ戻す。
忘れる筈がない。

自分に掛けられただろう声に、名無しさんはある種の確信を持って顔を上げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ