SHORT(お題消化 全6)
□罪と罰
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「まだ生きてるの」
反響した声が、寂れた工場の中に響いた。
廃墟と化した建物内は、今では其処彼処に錆びた鉄屑の山が点在するのみとなり、広い空間を縦にも横にも持て余していた。
吹き抜けの天井へ伸びた四方の壁には大きな窓が並び、それは長年の汚れで黄土を掛けた様にすっかり曇っている。
外はよく晴れている様だった。
鈍くではあるが、古びた窓なりに外界の光を取り込んでいる。
しかしつい先刻まで雨が降っていたのか、窓の枠や硝子は雨粒を沢山つけていた。
雨を抜けた、湿り気を残しながらも晴れ晴れとした空気。
そんな外界の変移をよそに、暗い屋内では血生臭さが鼻をつく。
エンヴィーは貫いた体が人形の様にだらりと草臥れるのを見てその手を引き抜いた。
指の先からは真っ赤な血が滴り落ちていく。
ぽたぽたと地面に垂れるものの、その音はカツン、という高いヒールの音に掻き消された。
「安心したわ」
「、何が」
「此処の所、仕事にならなかったじゃない」
「……」
エンヴィーは黙って視線を逸らし、足元の人間を見下ろした。
既に息はなく、動く気配もない。
其処に透かさず、これを食べてもいいかと尋ねる声。
好きにすればいい、と踵を返すと、すぐさま彼の後ろでグラトニーががつがつと食事に有りつき始めていた。
次の仕事が控えているのだろう。
もう此処に用はないと言わんばかりに、エンヴィーはすたすたと出口の方へ進んでいく。
薄く開いた扉の向こうからは白い日の光が鋭く差し込んでいた。
「例のお嬢さん、鋼の坊やと別れたみたいね」
「相変わらずいい耳してるね。嫌になるよ」
言いながら錆びついた引き戸に手を掛ける。
その声はいつもの調子で、彼は薄く笑っているらしかった。
…少し前までは酷く荒んだ様子だったが。
自分の知らぬ間に余裕を取り戻したらしいエンヴィーにラストは少し釈然としない笑みを浮かべていた。
「あの子は何処まで知っているの?」
ラストは青年の背中に問う。
あの子は貴方の事を知っているのか、と。
エンヴィーは何も答えなかった。
錆びついたドアが開かれ、その背中は逆光に包まれる。
白い光に触れた長い髪が、ふわりと透けて揺れる。
その時一瞬、彼は自らが押し開けた扉を目にした。
年期の入ったその戸は隅から隅まで色濃く赤茶け、月の裏側の様にざらざらとした風貌を見せていた。
「……」
剥離した鉄の粉が既に指の腹に纏わりついている。
脆く陰気な縁から手を離し、エンヴィーはするりと扉を抜けて今度こそ光の中に溶けていく。
くぐれば鼻を掠めるごく嗅ぎ慣れた匂い。
先ほど人間を貫いた右手には、乾いたあかがね色が薄くこびりついていた。
今はもうない鮮血の赤。
ふと笑うでもなく、彼は瞳を細める。
色褪せる様は、みな似通っていると。