SHORT(お題消化 全6)

□晴れすぎた空
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「名無しさんは此処に居ればいいんだよ」

「…一度でいいから行きたいの。白い太陽を見たこともないし」

腕の中から抜け出す名無しさん。
エンヴィーは少し顔色を変える。


「何度も言ってるだろ?名無しさんには無理だよ」

「…でも…」

納得がいかない様子の名無しさん。
彼女は夜間のみ外出を許され、生まれてこの方、真昼の太陽を見た事がない。

それは名無しさんがホムンクルスとしての身体を持ちながら、生まれつき皮膚の組織だけが極端に脆いせいだ。

日光を浴びれば瞬く間に焼け爛れてしまう脆弱な皮膚。
況して生まれて間もない名無しさんの再生能力では身体の再構築が間に合わず死んでしまうだろう。

真昼に外に出るのは現実問題として無理があった。



「少しくらいなら…」


「名無しさん、お前焼け死にたいの?」

にわかに低くなる声。

名無しさんが今日のような事を言うのは一度目や二度目ではない。
エンヴィーはこの手の会話に嫌気がさしているのだ。

不穏な空気を感じ取ったのか名無しさんは黙って閉じたままの本を見つめた。



「そんなに外に出たい?」

その問いに名無しさんは静かに頷いた。


「私…、!」

エンヴィーは名無しさんの肩を掴み、真っ白なベッドに押し倒した。


「俺が居るのに?」

「え?」

「名無しさんは外の世界になんか期待してんの?」


彼女を夢中にさせる白昼の世界に嫉妬しているのか、不満そうに尋ねながら名無しさんの頬に触れる。


「私は此処が好きだよ。だけど…」

「名無しさん、俺から離れるなんて絶対許さないから」



「んッ…待って、まだ話……っ」





息を奪う口づけは言葉を飲み込んで、

その夜はそれ以上何も言わせて貰えなかった。
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