短編2

□こころがきみを探してる
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過去をどんなに悔やんだところで元に戻ることはないのに、人はどうして後悔をしてしまうんだろう。それはきっとその瞬間はその人にとってかけがえのない瞬間だったからなんじゃないかと思う。私もそうだ。どんなに後悔しても元に戻らないってことはわかってるのに、それでも思い出さずにはいられない。胸の奥にあるただ一つの、幸せだったあの記憶を。

修悟と別れてから大分たつのに、私は未だに二人で撮った写真を部屋に飾っている。少し色褪せた写真に写る私達は笑顔を浮かべている。…現実ではもう、私達が笑い合うことなんて二度とないっていうのに。


修悟は部活で忙しいなりに私のために時間を作ってくれていた。それは確かに一般のカップルからみたら少ない時間だったけど、修悟は確かに私のことを考えていてくれた。なのに、私は自分を優先してくれないことに不満を抱いた。そのことで何度も喧嘩をして、ついにあの日、私は言ってはいけない言葉を言ってしまった。


『私達、出逢わなければよかったね』

「…は?」

『だって、修悟と出逢わなければ私はこんなに苦しくなかった』

「…本気で言ってんのかよ」

『修悟だって、私のせいで嫌な思いしなくて済んだでしょ?』


その言葉は本気じゃなかった。私は修悟が「そんなことない」って言ってくれるのを期待していた。「お前と出逢ってよかった」って言ってくれるのを待っていた。修悟を傷つけておいて、何て虫のいい話だろう。


「…そうだな」

『え…』

「こんなことになるなら出逢わない方がよかったのかもな」


ガツンと頭を硬いもので殴られたような衝撃が走った。同じことを修悟に言ったくせに、胸がズキズキと痛む。苦しかった。私はその言葉を後悔して、そして謝ろうと思った。だけど修悟の目を見て私は言葉を失った。修悟は見たことがないくらい冷たくてそして悲しそうな目で私を見て、そしてすぐに目を逸らした。


「別れようぜ」


修悟の目が好きだった。目つきが悪くて、睨んでるってよく誤解されがちだけどでも修悟の目はいつも真っ直ぐで、私を見る目は優しかった。だけど、その時の修悟の目は私の知らない人みたいな目だった。嫌だよって言いたかった。嘘だよ、ごめんねって修悟の背中に縋りつきたかった。だけど、情けないことに私の身体は動けという脳からの指令を拒んだ。それはきっと、修悟の目が真剣だったってことに気付いていたから。きっと引き止めて修悟の気持ちは変わらないってことをどこかでわかっていたから。そして、私達の関係はあっけなく終わってしまった。

元々学校が違う上に、家だってそんなに近くなかった私達が偶然でももう一度会うことなんてなくて。でも、別れてしばらくたった今でも振り返ればいつも修悟がそこにいて、見守ってくれているような気がした。そんなことはありえないのに私の心は今でもいつも修悟を探している。自業自得なのに、なんて諦めが悪いんだろう。


『永遠』なんて簡単に使う言葉じゃないってことはわかってる。だけど、私は修悟となら『永遠』が叶うような気がしていた。信じていた。願っていた。…でも、それを壊したのは、私だ。

左手には少しごつごつした大きな大好きな手のぬくもり。体には優しく包み込んでくれた大好きな匂い。唇には柔らかくて温かいキス。私の体の至るところに未だに修悟の記憶が残っている。思い出になんてできない。まだこんなに好きなのに、思い出になんてできるはずない。なのに、なのに。何で私は。


『ごめん、ね…修悟、』


もう届くことのない言葉を小さな小さな声で呟く。こんなに簡単なことなのに、ごめんねって言って大好きだよって素直に自分の気持ちを伝えるだけでよかったのに。失ってから気付くなんて私はバカだ。修悟は私にとってこんなにかけがえのない存在だったってこと、今更気付いたってもう遅いのに。

過去をどんなに悔やんだって元に戻ることはないんだってことはわかっている。でも、わかっていても後悔せずにはいられないことだってある。もしも戻れるなら、なんて起こるはずのない未来に期待を抱いてしまうのは、こんなにもまだ修悟のことが好きだから。修悟がいないとまだ上手に笑えない私。きっと、これからも二人で歩いてきた道を通るたびに戻ることのない記憶の中で私は修悟を探し続けるんだろう。








こころがきみを探してる
(あなたにとっては過去かもしれないけれど、わたしは)


一応、「キヲク」をイメージしたお話です。

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