短編2

□涸れた涙枯れない想い
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校舎を出て、校門に向かって歩く。校門を出て駅に向かって歩く途中で前方から野球部が声出しをしながらランニングしてくるのが見えた。


「おーっす!今帰り?」

『あ、うん』

「また明日なー!」

『うん。頑張って』

「サンキュー!」


同じクラスの田島に声を掛けられて、そんなやりとりを交わして通り過ぎていく野球部を振り返る。三橋君もペコリと頭を下げてくれて私も軽く会釈をする。だけど、泉だけは、こちらを向くこともなく走り去って行った。


『(…やっぱり、目も合わせてくれないか)』


そう思い一つ溜息を吐く。泉と私は少しの間だけど付き合っていた。付き合う前から泉とは仲が良くて、でも、別れてからは一度も話してないし目が合うこともない。

別れたきっかけは私の方にあった。部活で忙しい泉を思いやってあげられなかった私のせいだった。自分の欲求だけを押し付けて泉の気持ちを無視してしまって、そんな私に嫌気が差して、泉は私に別れを告げた。素直になれなかった私は泉の背中を追いかけることができなかった。失いたくないと思ってたはずなのに、私は一人でも大丈夫だなんて思って強がって、そして私達は本当に終わってしまった。

今思えば何であんな簡単なことができなかったんだろう、と思う。泉が好きで、大好きで、付き合えて本当に嬉しかったはずなのに。何で私は自分のことばっかりで泉のことをもっと考えてあげられなかったのかな。…今更後悔しても遅いけど。何も戻らないって、わかってるけど。でも毎日教室で泉を見るたびそう思わずにはいられなかった。


あの頃の私には今が永遠で。目の前にあるものだけが全てで。泉がいなくなったら全てが終わる気がした。でも、実際世界は何も変わらなくて。変わったのは私達二人の関係だけで。私だけが今でも一人立ち止まったままで。…なんて未練がましいんだろう。
(泉はもう一人で歩き出してるっていうのに、)


ねぇ、泉。私、今でも泉が好き。泉のこと、まだ忘れてないよ。忘れるわけない。泉を忘れるなんて、そんなことできるわけがない。別れてから私は何度泉のことを思い出して、何度戻れないという現実に涙しただろう。後悔してる。戻りたい。話したい。好き。大好きだよ。言葉にできないくらい今でも…好きなんだよ。

ねぇ、あの時。遠ざかっていく泉の声を、振り返らないその大好きな背中を、泣きながら追いかけて抱きつくことができていたら、いかないでって縋りつけていたのなら、私達の未来は変わっていたのかな。素直な気持ちを伝えていれば、泉はもう一度私にチャンスをくれたのかな。意味のないことだってわかっていても考えずにはいられなくて。もう遅い。全ては終わってしまったんだから。そう言い聞かせても、何度も考えてしまう。


遠くで泉の声が聞こえた。それだけで胸が震える。きっと、私はまだしばらく泉のことを忘れられない。何度も何度も思い出してしまうんだろう。何度も何度も後悔しては自分の未熟さを責めてしまうだろう。きっとこの先もずっと。








涸れた涙枯れない想い
(確かなことは、彼が私を見ていないという現実)


何度もの歌詞をイメージしたのですが途中でなんか違う方向に…!

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