短編2

□こんな私でよければ
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『ぐすっ…ひっく、』

「…いつまで泣いてんだよ」

『ひどい阿部っ!失恋したばっかの傷心の乙女なんだから労わってよー!』

「はいはい、残念だったな」

『…ムカつく』


お聞きの通り、私はついさっきずっと片想いしてた人に失恋してしまった。って言っても告白して振られたとかじゃなくて、彼女と手を繋いで帰っているところを目撃してしまったんだ。…彼女がいるなんて、知らなかった。ずっと好きだったくせに私は彼のことを何も知らなかったんだ。想いを伝えることすらできなかったことが悲しくて悔しくて、そして私は同じクラスの阿部に話を聞いてもらっていた。ちなみに阿部はミーティングが終わって忘れ物を教室にたまたま取りに来たらしい。

後悔したって仕方ないってわかってる。でも涙は止まらなくって拭ってもじわりと溢れてくる。あぁ、関係ない阿部まで巻き込んで私はなんて自己中なんだろう。自分のことしか考えてないこんな私ならもし彼に彼女がいなかったとしても、想いを伝えたとしてもきっと幸せになんかなれないんじゃないかな。なんだかネガティブなことしか浮かばない。このまま幸せになれなかったらどうしよう…!


『阿部ーっ…』

「なんだよ」

『ごめんね、阿部疲れてるのに』

「別に」

『だって、怒ってるでしょ』

「怒ってねーって」

『じゃあ何でそんな不機嫌なの!』


あぁ、私ってやっぱり自己中極まりない。本当は迷惑かけてることを阿部に謝ろうとしただけなのに、あからさまに面倒くさそうに不機嫌そうな表情を浮かべる阿部にどうしていいかわからなくなって、そんな風に叫んでしまった。ごめん、ごめんね阿部。そのまま怒って帰っていいよ。私のことなんて置いてさ。そしたら私は一人で気の済むまで泣いて、そして明日になったらまた元気に笑えるようになるから。だから。


「…好きな女が他のヤツの話してんのに、ご機嫌になんかなれっかよ」


あれ。私都合のいい夢を見てるのかな。それとも失恋したショックで耳がおかしくなっちゃったのかな。阿部の言葉に驚いて、私は目を見開く。阿部は少し頬を染めてそれから「…何か言えよ」って言った。え、だ、だって。どういうこと?好きな、女?え?それって…わ、私?

私って本当最低だ。阿部の気持ちも知らないで、自分の言いたいことだけ言いまくって泣いて、そして、さっきまであんなに彼のことで頭がいっぱいだったのに、今は阿部を見るだけで胸がどきどきして、顔が熱くなって…なんていい加減で気の多い女なんだろう。ねぇ、阿部。私はこんなにずるいよ。阿部に好かれるような女のコじゃないよ?







こんな私でよければ
(…阿部となら、幸せになれる気がする)(は?気じゃねーよ)(あんなヤツよりもオレが、絶対幸せにしてやる)


企画サイト「好きだ、」様提出作品

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