短編2

□友達なら終わらなかった?
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『ねぇ、別れようか』


いつものように学校と部活を終えて、それからいつものように彼女と寄り道をしながら帰った。そしていつものように彼女を家まで送り届けて、そこまでは本当にいつも通りだったのに。

いつもと違ったのは彼女の口から出た言葉が『じゃあね』でも『また明日ね』でもなくて『別れよう』っていうものだっただけ。他は何一ついつもと変わらなかった。


「…別れたいの?」

『このままじゃ、ダメだよ』

「オレは別にいいと思ってたけど」

『…ダメだよ、花井が可哀相』


彼女はそう言って少し悲しそうな顔をした。だから、オレは別にいいんだって。お前のそばにいられるなら。例え、お前がオレを見てなくても。


『花井は優しすぎるよ』

「…んなことねェよ」

『花井にはもっと、似合う子がいる』

「……オレは、」


オレはお前がいいんだよ。お前じゃなきゃ嫌なんだよ。似合うとか似合わないとか、そんなことで好きになってるワケじゃない。そう言いたかったけど、言えなかった。これ以上彼女を苦しませたくなかったなんて理由づけるオレは偽善者だと思う。


『ごめんね、花井』

「…謝んな」

『……ごめん』


謝るな。謝んなよ。謝られたら今までのは全部嘘だったって言われてるみたいだろ。例え偽りだったとしても、全部が全部嘘だったワケじゃないだろ?少なくとも、オレとお前が過ごした時間はホンモノだっただろ?別にお前の気持ちがなくてもいいんだ。オレにとってはかけがえのない時間だったんだから。


『今までありがとう、花井』

「……あぁ、オレこそ、ありがとう」


ありがとう、と言って切なそうに目を細めた彼女を抱きしめたかったけど、もうオレにはどうすることもできなかった。そうしたところで彼女の心を引き戻すことなんてできっこないってことはわかってたからだ。…引き戻すって言い方はおかしいよな。彼女の心は元々、オレの元になんてなかったんだから。

友達以上を望んだのはオレだ。オレが彼女に気持ちを伝えて、そしてほとんど無理矢理に近い感じで今まで付き合ってもらっていた。彼女の心にはまだ、違うヤツがいるっていうのに。オレは一人で満足してた。彼女がそいつへの想いとオレへの罪悪感で板ばさみになってるのも知らずに、一人で。こんなオレが優しいワケがない。自分の気持ちを押し付けた上に彼女を苦しめて、そして結局最後まで気を使わせてしまったオレが、優しいワケないんだ。


『さようなら、花井』

「……あぁ」


最後まで、彼女はオレに優しい表情を向けてくれていた。でも、最後まで一度もオレを下の名前で呼ぶことはなかった。それは、オレが特別じゃないってこと。呼び方にこだわるなんてガキくせーかもしれないけど、それは紛れも無い事実で。オレは自分の名前は嫌いだったはずなのに、いつからか彼女の口から呼ばれることを期待して胸を焦がしていた。彼女の声で呼ばれたらきっとオレは自分の名前が好きになっていたかもしれない。そのくらい、オレは彼女のことが好きで、好きで、どうしようもなくて。

でも、こんな風になるなら。彼女にこんな辛い想いをさせるくらいなら、友達のままの方がよかったのかもな。そんなこと今更考えたって、気付いたって遅いのに。もう彼女を傷つけてしまった後だっていうのに。後悔だけが消えなくて、消えなくて。


オレが自分の気持ちを抑えられるくらい大人で、彼女の幸せを願えるくらいの器がある男だったら、こんな風に後悔はしなかったんだろうか。








友達なら終わらなかった?
(出会わなかったらという仮定の無意味さに比べたら、)

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