短編2

□さよならまであと3秒
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オレの彼女は、食べ物とか買い物とか、とにかく何でも一人ですぐに決められない性格だった。いつもどっちにしようってずっと悩んで悩んででも決められなくて、それで結局最後はオレが代わりに決めてあげていた。そんな優柔不断な性格の彼女だからオレがそばにいてやらないとダメなんだと思ってた。彼女はオレがいなきゃ何もできないんだと思っていた。そう、自惚れていた。


『…好きな人が、できたんだ』


だから、その言葉を聞いた時自分の耳を疑った。違う誰かと話しているんじゃないかと錯覚もした。で、も今オレの目の前に座っている彼女は紛れもなくオレの彼女で。いつも一人じゃ何も決められない彼女のはずで。なのに、彼女は今、なんて言った?

ごめんね、と泣きそうな声で呟いた彼女の顔を見ることができなかった。信じられなかった。これは悪い夢なんじゃないのか?…夢だったら、いいのに。そんな情けない願望ばかりが頭の中に浮かんでは消えていく。ふわりと柔らかい風がオレと彼女の間を通り過ぎた。風はこんなに穏やかだっていうのに、オレの胸は張り裂けそうに痛くて。


「…そっか、」

『ごめん、本当…』

「わかったよ。オレこそ、なんか色々ごめん」

『勇人…』

「そいつと、うまくいくといいね」


オレの言葉を聞いて彼女は大きく目を見開いたけど、ありがとう、と潤んだ瞳で少し微笑んだ。本当は、引き止めたかった。だけどオレの口は自然とそんな台詞を口走っていた。本当は泣きそうなくらいに悲しかった。だけど、オレは笑顔を浮かべていた。

オレの知ってる彼女は優柔不断で、いつも一人じゃ何も決められない。そんな彼女が決めたことだからきっと、いっぱい悩んでいっぱい考えたんだろう。辛かっただろう。苦しかっただろう。もしかしたら泣いたかもしれない。彼女は泣き虫だから。心がとても、優しいから。


彼女の笑顔も仕草も、そして彼女の言葉の全ても、オレのためだけにあるんだと思っていた。オレだけに向けられるものだと思っていた。これからもそれは変わることはないと思っていた。でも変わらないものなんてないんだ。オレの気持ちは変わらないけど、彼女の気持ちは変わってしまったんだ。その事実がどうしようもなく悲しかった。

でも、そんなことよりも。オレは彼女が本当に大好きで。彼女の中では過去だとしてもオレの気持ちはまだ彼女に向かっていて、振られてしまってもそれは薄れることはなくて。惨めに縋ってしまおうかとも思ったけど、でもオレは彼女のことが好きだから。彼女の笑顔が好きだから。彼女を困らせたくないから。だから笑って手を振ることにするよ。君が悲しまないように、最後まで。








さよならまであと3秒
(君がいなくなるまでは堪えるから、だから)(君がいなくなったら泣いてもいいかな)


鮮やかなものという曲をイメージしました。

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