短編2

□きみの温かさを知る
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小学校の時は家族と過ごすのが当たり前だった。中学の時は部活もやってたけど、やっぱり家族と過ごすことの方が多かった。だから彼女ができて家族以外と過ごすクリスマスはうまれて初めてで。大好きな彼女との初めてのクリスマスだから慣れてないとかカッコ悪いとこ見せたくなくて(それじゃなくても彼女はオレより年上なんだから、)オレなりに色々調べて今日まで準備してきた。

そしていよいよ当日。準備は万端だ。まずオシャレなレストランに行って店の外にあるでかいツリーをを見ながら飯を食う。そしてそこでプレゼントを渡す。その後はイルミネーションを見て、名残惜しいけどあんまり遅くならないうちに彼女を家まで送り届ける。我ながら完璧だ。頭の中で何度もイメージしながら彼女の喜ぶ顔を思い描く。


『…梓くん!ごめんねっ』

「いや、大丈夫だよ」


少し遅れて待ち合わせ場所に彼女がやってきた。走ってきたのか肩で息をしている姿を見ておもわず頬が緩む。彼女は何をするにもオレを1番に気遣ってくれて本当に優しい。年上だけど一歩譲ってくれてオレに花を持たせてくれるってゆーか、本当できた人だと思う。


『どこ行こうか?』

「とりあえず飯食いに行く?」

『うんっ、いいよ!』


別に計画なんてしてねェ、こんなの慣れてるんだっていうように何でもない顔をしてそう言うと彼女は嬉しそうに笑って頷いてくれた。内心ほっとした。

手を差し出すと彼女がオレの手を握る。この行為に慣れるまでも大分時間がかかった。…ぶっちゃけ今も慣れてないし、手が触れるたびにドキドキするけどあくまでも顔には出さないように気をつけてる。だせーヤツって思われたくねェし。


飯っていっても店なんていっぱいある。正直どこがいいかなんてサッパリだ。だからマネジである篠岡に教えてもらってカップルに人気があるらしいレストランに決めた。普段はそんなの調べたりしないし学生だから値段とかも気にしちまうけど、今日はせっかくのクリスマスだから雰囲気を大切にしたくてそこに決めた。場所も調べてきたし完璧。下見もしたし道に迷うこともない。


『わーっ!私そこ行きたかったんだ!』

「そうなの?」

『うんっ!初めてだーっ』

「(……初めて、)」


目を輝かせてそう言った彼女におもわず頬が緩んだ。彼女の初めてがまだ残されていたなんて。オレは彼女に出会って初めて感じることばかりだし、デートとか恋人らしいことをするのも初めてだ。でもきっと、彼女はそうじゃないと思う。聞いたワケじゃないけど、なんとなく勘。年上だし当たり前かもしんねーけどだからたかがレストランでもすげェ嬉しかった。

嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女の手を引いて歩き出す。たわいのない話をしながら歩いているとあっという間にレストランについた。


「――申し訳ありません、本日はご予約している方のみのご案内となっております」

「え、予約?」

「はい、申し訳ありません」


中に入るとサンタの衣装で着飾った店員が申し訳なさそうに頭を下げながらそう言った。こういう時にこういう場所に来るのは初めてだったから、予約をしなきゃ入れないなんて知らなかった。そういえば篠岡が電話した方がいいとかなんとか言ってたかも…。場所がわかんなかったらって意味かと思って適当に流したことを後悔した。つーか、カッコ悪くね?オレ…!


「ご、ごめんな…」

『ううんっ、いいよ全然!また今度にして今日は違うとこ行こ?』

「…ごめん」

『大丈夫だよー、何食べよっか?』


このレストランでツリーを見ながら食事してプレゼントを渡して、それからイルミネーションを見て…なんてここ何日間で考えてた計画が一気に崩れ去ってしまった。彼女はオレに気を遣ってか明るくそう言ってくれたけど謝ることしかできなくて。普通に考えたらクリスマスなんて混むんだから予約とか当たり前だよな…。

そして近くにある店を色々回ったけどやっぱり今日はどこもいっぱいで。結局空いていたのはいつも行くファーストフードだけで食事もそこでとることになってしまった。…せっかくクリスマスなのに、ハンバーガーって。本当はもっとクリスマスっぽい雰囲気を感じながら豪華な食事をとる予定だったのに。


「…本当、ごめんな」

『仕方ないよっ、今日はどこも混んでるもんねー』

「いや、オレ…彼女とクリスマス過ごすのとか初めてだから予約とかよくわかんなくて、」


明るく返してくれる彼女にますます自己嫌悪に陥って彼女の顔が見れなくて小さな声でそう呟いた。ああ、何言ってんだオレ。言い訳とか本当だせェ。


『…なんか、嬉しいな』

「…え?」

『梓くんの初めてクリスマスを過ごす彼女が私で嬉しい』

「……っ、」


笑顔でそう言ってくれた彼女に顔が熱くなった。何でそんなに優しいんだよ。オレは彼女に何もしてあげられないのに。せっかくのクリスマスに彼女を喜ばせてやることすらできなかったのに。


『私は梓くんと一緒に過ごせれば、場所だってご飯だって別に何でもいい。梓くんがいてくれたら他には何もいらないよ』


照れ臭そうに笑いながら言ってくれた彼女の言葉になんだか泣きそうになってしまってオレは必死に堪えた。

本当は彼女だってせっかくのクリスマスなんだからもっと雰囲気のある店に行きたいはずなのに。オレじゃなくて車とか持ってるもっと大人の男がよかったなんて思ってたらどうしよう、とか色々考えてしまっていたけど彼女のその言葉で一瞬でもそんなことを考えてしまった自分を情けなく思った。彼女はいつだってこんなにオレのことを想ってくれてるのに。


「……オレも、だよ」

『ふふっ、ありがとう』


オレのほうこそ、ありがとう。そう言いたかったのにまだガキなオレは素直に口にすることができなくて。でも口にしなくても彼女はわかっていてくれてる気がする。だって、目の前にいる彼女はいつもよりももっと幸せそうに笑っていてくれてるから。


「……ねん、は」

『え?』

「来年は、頑張るから」

『!うんっ、期待してるねっ』


いつもは照れ臭くてなかなか言えないけれど、ずっと一緒にいたいと思ってるんだ。来年も、再来年も、その先もずっと。今はまだ伝える勇気なんてないけどいつかきっと伝えたい。もっともっと、彼女に相応しい男になれたら、いつかきっと。


『このあとどうするっ?』

「あぁ、イルミネーション見て…(あ、そういえばプレゼント…)」

『そのあとウチくる?』

「…!なっ!」

『ふふっ、じょーだんだよっ』


…やっぱり、悔しいけど彼女の方が何枚も上手らしい。







きみの温かさを知る
(…行く)(え?)(行くよ、いいんだろ?)(…!う、うんっ!)

(…クリスマスくらい、ちょっと勇気出したっていいよな)



ちょろりさま、企画ご参加ありがとうございました\^^/

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