短編2

□あなただから恋をした
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私には今、好きな人がいる。それは9組の野球部の田島くん。田島くんはいつも明るく笑っていてクラスの中心的存在で、それから野球がすっごく上手だ。野球部だから上手なのは当たり前じゃんって思うかもしれないけど私と同じクラスで田島くんと同じ野球部の水谷くんから見ても田島くんは“天才”らしい。

水谷くんに協力してもらって私は田島くんのアドをゲットすることに成功して、それから頻繁にメールをするようになった。田島くんはすぐにメールを返してくれて私も田島くんのことをもっと知りたいからすぐメールを返す。毎日そうしてやりとりをしていたら私達はいつの間にか仲良しになった。今ではメールだけじゃなくて電話もたくさんする。なんかこれっていいカンジ、なのかなあ?


『――もしもしっ』

「オレ!」

『部活終わったのっ?お疲れさまっ』

「おー、サンキュー!」


田島くんは最近部活が終わったら電話をくれるようになった。今日あったこととか、食べたものとか、野球部の話とか、違うクラスだし部活も違うしなんか新鮮ですっごく楽しい。やっぱり私田島くんがすきだなあ。


「あのさー、明日暇?」

『え、うんっ、暇だけど』

「マジ!?じゃあさー、明日練習試合あっから応援来て!」

『え…行っていいの?』

「おう!」


びっくりだ。いきなり田島くんに野球部の試合に誘われちゃった。実は仲良くなる前は何回かこっそり見に行ったことがあるんだけど今は顔もバレちゃってるしなんとなく恥ずかしくて行ってない。でもやっぱり田島くんの野球してるとこ見たいよ…!田島くんからせっかく誘ってくれたんだもん、いいよねっ。


『…行くっ!』

「マジ!?オレ頑張るな!」

『うんっ、応援してるねっ!』


それから少し話してまた明日ねって電話を切った。やったやったやった!田島くんに誘われちゃった!明日が楽しみすぎて服を選ぶのとか色々夢中になってたらいつの間にか夜中になっていて慌てて寝坊しないように眠りについた。



『サイアクー…!』


目が覚めた時間は11時。試合開始時間も11時。つまり、私は寝坊してしまったのだ。ちなみにウチから学校までは30分くらいかかる。…最悪だ、私のバカ!本当はメイクしたり髪を巻いたりとかオシャレしたかったけど結局いつもと同じ髪型にすっぴんに近い顔で急いで家を出た。チャリを飛ばして学校へ急ぐ。

やっと学校に着いてグラウンドに向かった。フェンス越しに試合を見ている人がちらほらいる。他校の人かなあ?見たことある人もいるし、西浦の人?野球部って人気あるんだあ。そういえば結構いつも女の子とかいた気がする…って、そんなこと考えてる場合じゃない!そう思いながら慌てて試合の結果を確認する。2-0で西浦が勝ってる。よかったあ。安心してふーっと息を吐いた。


相手チームはヒットを打ってもなかなか繋ぐことができないまま試合は終盤に差し掛かった。なんか、すごいなあ。あの投げてる子なんてすっごく細いのに全然打たれてないし、あの球を受けてるのってウチのクラスの阿部くんだよね?それにあっちにいるのは水谷くんと花井くんだ。…クラスにいるときは普通の男の子なのに野球をやってるとすっごくかっこよく見える。

でもやっぱり私が目で追ってしまうのは田島くんで。田島くんは本当に楽しそうにボールを追いかけたり打ったりしている。いいなあ。かっこいいなあ。やっぱり私田島くんがすきだ。キラキラしてる笑顔は他の誰よりも輝いて見える。


「ねーっ4番の子って何組?」

「9組だよ!田島くん!」


私から少し離れた位置で固まっていた女の子達の声が聞こえてきた。ドキッと心臓が跳ねる。


「笑った顔可愛くないー?」

「うんうん、いいよねー!私前から狙ってたんだーっ」

「うそーずるいっ私もー」

「えー私は泉くんだなー」


キャッキャッとはしゃぐ女の子達の声にズキズキと胸が痛んだ。そう、だよね。田島くんあんなにカッコイイもん。他の女の子だってすきになっちゃうよね。ならない方がおかしいよ。確かにメールとかいっぱいしてるけど、違うクラスでちょっとしか喋ったことない私でさえこんなにすきなんだから毎日顔合わせて話せる同じクラスの子だったら間違いなくすきになっちゃうよ。だって田島くんだもん。仕方ないよ。

わかってる。わかってるのに。仕方ないことなのに。それがどうしても嫌でたまらなかった。田島くんに恋してる気持ちは私と一緒なのに、田島くんは私の彼氏でも何でもないんだからこんな気持ちになるのはおかしいのに、でも嫌だ。苦しい。田島くんを見ないで、なんて思ってはっと我に返って私は拳をギュッと握った。


「彼女いるのかなー?」

「告っちゃえばっ?」

「田島くんが彼氏だったら楽しそうだよねー!」


そう話している女の子達は髪形も綺麗でメイクもバッチリで服装だって可愛い女の子らしい子達で。それに引き換え私は急いできたから頭はボサボサだしほとんどすっぴんだし服だって昨日一生懸命選んだけど似合ってない。こんな私よりあの子達の方が田島くんには似合ってる。田島くんだって私なんかよりあの子達を可愛いと思うよ。ああ、なんか泣きたくなってきた。…もう帰ろうかなあ。


「「「ありがとうございました!」」」


一人でそんなことを考えている間にいつの間にか試合が終わってしまっていたみたいで野球部のみんなの声が聞こえた。顔を上げて結果を見るとあのまま西浦が勝っていて。ほっとしたけどやっぱりどこか複雑な気持ちだった。


「あっ!おーい!」


するとそんな声が聞こえて田島くんが手を振りながらこっちに走ってきた。田島くんを見て女の子達が騒いでいてその声を聞きたくなくって私は背を向けた。きっと田島くんはあの子達のところへ行くんだ。当然だよ。あんな可愛い子達が見に来てくれてるんだもん。わかってるけど、そんなところ見たくない。

こんなことなら振られてもいいから田島くんにすきって言えばよかったなあ。いいカンジだなんて自惚れてホント私バカみたい。


「…なあっ!」


手を引かれて初めて田島くんが私を追いかけてきてることに気付いた。何で?あの子達は?ちょっと怒ったような顔をしている田島くんを見てそんな疑問が浮かぶ。


「どこ行くんだよっ」

『…帰る』

「何で!?」

『…田島くん、あの子達はいいの?』

「あの子って?」

『え…』


田島くんはワケがわからないというように首を傾げて私を見ている。だって、あの子田島くんに告白するって言ってたのに…。まさか、あの子達より私を追いかけてきてくれたの?あんなに可愛い子を放っておいて?


「よくわかんないけど、オレが見てて欲しかったのはお前だけだから!」


…田島くん、バカだよ。だってあんなに可愛い子を彼女にできるチャンスだったのに。でも田島くんの真っ直ぐな目と私の大好きな笑顔がそれが嘘じゃないってことを物語っていて。ああ、どうしよう。嬉しい。私やっぱり田島くんが大好きだ。そう思ったらこの気持ちを無性に伝えたくなった。


『田島くん、好き』

「…オレも!」


そう言ったら田島くんもとびっきりの笑顔で答えてくれて、嬉しくて嬉しくて私はおもわず田島くんに飛びついた。



「オレ先帰っからー!」

「は?田島コンビニ行かないの?」

「彼女待ってるし!」

「「「はあ?彼女ーっ!?」」」






あなただから恋をした
(いつもと同じ帰り道なのにいつもよりもずっとずっと特別に感じるのは田島くんがいるからだよ!)


直さま、企画ご参加ありがとうございました\^^/

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