短編2

□ありふれてる大切なこと
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(沖くん視点で描かれてます)(先に謝っておきますなんか色々ごめんなさい…!)



今日はクリスマス。モモカンが気を利かせてくれたのか、それともただ単に本当にバイトが入ったのかわかんないけど今日の練習はナシになった。クリスマスに予定もなかったオレら野球部は部室でみんなでクリスマスパーティーをすることにした。男だらけってとこがちょっとアレだけど、マネジがいるからまだいいかなあ。なんて西広と話しながら部室に向かうために教室を出た。


「沖、西広、今から行くの?」

「あ、栄口。うん、アレ巣山は?」

「掃除当番ー。一緒に行っていい?」

「うん、いいよ」


途中で栄口と合流してたわいのない話をしながら部室に向かう。すると部室の前でジュースとかが入った重そうな袋を一生懸命運んでいるマネジに会った。


「重たそうだね、手伝うよー」

『あっ、みんな!ありがとうっ』


彼女から袋を受け取って部室に入ると7組のヤツらと9組のヤツらがもういて、田島と三橋はテーブルの真ん中に置いてある四角い箱を見て目を輝かせている。多分中身ケーキだろうなあ。なんかあの二人らしいや。


「ちーっス」

「おお、もう揃ってんね」

「巣山は?」

「掃除ー。もう来ると思うけど」

「ケーキ楽しみだな、三橋っ!」

「う、ん!」


そのうち巣山も来てみんな揃ったからそろそろ始めるかーってなってお菓子とかだけど食べ物を広げ始めた。なんかこういうのっていいなあ。いつもコンビニでみんあでお菓子とか食べるけど改めてこういう風に集まるってなかなかないし。


「ケーキ切る?」

『あっ千代ちゃん私に任せて!』

「お前切れんの?」

『うっさいよ、巣山!』


篠岡がケーキを切るのに包丁を持ってきて、それを見た彼女が自分がやる!と嬉しそうに包丁を手に取る。…大丈夫かなあ。彼女はドジなところがあるからちょっと不安になった。同じように思ったらしい巣山が彼女に尋ねてたけど彼女は自信満々に包丁を掲げた。…なんか不安なんだけど。


『ケーキにゅうとーう!』

「…それなんか違うと思うんだけど」

『もう、花井は細かいなー。だからハゲるんだよ!』

「はぁ!?ハゲてねーよ、坊主だ!」

「「「ぶっ!」」」

「!笑うなてめーら!!」


大きな声で何を言い出すかと思えばケーキ入刀って、いや、確かにそうだけど。そう思ってたら今度は花井が声を掛けた。でもそんな花井に彼女が返した言葉におもわずオレ達は笑ってしまった。


「ドンマイ、ハゲ」

「阿部お前っ…!」

『はいっケーキ!おいしいよ!なんてったって千代ちゃんの手作りだもん!』

「マジで!?篠岡のっ?」

「うん、自信ないけど…」

「おーうまそう。作ったの篠岡でよかったな」

『ちょっと泉!どういう意味よ!』

「そういう意味だけど?」

『腹立つー!ちょっと可愛い顔してるからって!』


泉に文句を言いながらもきちんと平等に皿に取り分けてるとこを見ると、なんとなく危なっかしいイメージがあるけどやっぱり彼女もマネジだよなあって思う。こういう扱いなのはただ単にからかい甲斐がある性格だからっていうのもあるけど。


そんな感じでいつもみたいにワイワイしながらお菓子を食べてたら、彼女がいきなり立ち上がってじゃあそろそろ!って口を開いた。


『プレゼント交換ターイムっ!』

「いえーい!!」

「うぜぇんだけどコイツ」

「ちょ、阿部うざいって何!」


阿部と水谷の日常茶飯事なやりとりをスルーして彼女がみんなにビンゴのカードを配り始めた。彼女の提案でオレ達はそれぞれ金額を決めてプレゼントを買ってきていて、定番だけどビンゴで抜けた順にそれを選んでいくっていうゲームだ。ありきたりだけどこういうのって結構盛り上がるんだよなあ。

案の定みんなでわいわい騒いで盛り上がりながらリーチって声が出たりして、そろそろいち抜けするヤツが現れそうだ。そう言ってるオレもリーチだし、でもいち抜けとかってなんか変に緊張しそうだなあ。


『次、24!』

「…あ。」


…と思ってたら本当にいち抜けしてしまった。ついてるんだかついてないんだか、イマイチわかんないなあ…。


「おっ、沖ビンゴじゃん!」

「すげー!ずりー!」

『沖っ、この中から好きなの選んでいーよ!』

「あー、えっと…」


どうしよう。迷うなー。でもきっと男連中よりマネジのプレゼント選んだ方が間違いはなさそうだよなー。こういうのなかなか決めらんないんだよなあ、どうしよう。頭を悩ませていたら、彼女が誇らしげに可愛らしいピンクの袋を手にとって満面の笑みで口を開いた。


『ちなみにコレ私の!』

「(…えーと、)あ、そうなんだ」

「沖、やめとけ。どうせ変なのだし」

『ちょっと阿部!失礼なこと言わないでよね!』

「…じゃあコレで」

「あっ、それ私だ」

『ちょっと沖…!ひどくない!?』


別に彼女の趣味を疑うワケじゃないけど篠岡の方が安全だ。そう思ったから彼女には悪いけどもう一つの可愛らしいラッピングの方を選んだ。ごめん、だってなんかそんなアピールされたら選びづらかったし。

その後も続々とビンゴで抜けるヤツらが出て、でも結局意図的にだけど彼女のプレゼントは選ばれなかった。その度に彼女がちょっとずつ泣きそうな顔になってきて、さすがにそろそろやばいかも。ちょっといじめすぎた?


「オ、レ…ビンゴ、だ!」


その時、そう言って三橋が立ち上がった。そしてプレゼントの置いてある方へ行くと迷わず彼女のものを手にとってにへっとした笑みを浮かべた。み、三橋…なんかアイツ男らしいんだけど…!


「オレ、コレにする、よっ」

『三橋ぃ…』


そんな三橋に彼女はついに泣き出しちゃって、オレ達はびっくりして慌てた。だって彼女はいつも笑ってるから泣いてるとこなんて見たことなくって。やばい、やりすぎだよな、今回は…。せっかくのクリスマスなのに。


「なんか、ごめんな…」

「オレも。悪ノリしすぎた」

「ごめん」

『…私そんなに嫌われてるのかと思ってちょっとショックだったよぉ』

「誰もキライじゃないって!」

「泣くなよー!みんなお前のこと好きだからさ、ゲンミツに!」

『…ゲンミツに?』

「おう!な、三橋!」

「う、ん!オレ、好きだよ!」

『三橋ぃ〜、私も大好きだよーっ!』


そう言って三橋に抱きついた彼女を見て少しほっとした。からかい甲斐があるからみんないつもいじめちゃうけど、ホントはみんな彼女のことが好きなんだよなあ。本当は優しくていつもニコニコしてて明るい彼女のことが。男とか女とか、そういうの関係なく勿論篠岡も含めてオレ達の絆は結構固いと思う。…なんか、ちょっと恥ずかしいけど。


「で、結局中身なんだったんだ?」

「あっ、開けて、いい?」

『うんっ!いいよ!』


彼女の返事を聞いて三橋がラッピングのリボンをほどいていく。そして中から取り出したものはニットっぽい…なんだ、アレ。マフラー?にしては、短いような…。


「(何だコレ…)」

「(帽子、じゃないよな…)」

「ネッグウォーマー?」

「ね…?」

「首につけるヤツ。レッグウォーマーってあるだろ」

「ああ!」


満面の笑みの彼女を他所に固まるオレ達に、部員の中で1番そういうのに詳しい巣山が説明してくれた。へえ、ネッグウォーマーかあ。それならマフラー代わりに使えるし、しかも手編みっぽいし、結構器用なんだなあ。


『ネッグ…?何それ?』

「は?違うの?」

『それねー、腹巻き!お腹冷えたら大変でしょ!なんと手作りだよー!私のお父さんとおそろなのっ!』

「「「…はあ!?腹巻き!?」」」


意外とやるじゃん、みたいな雰囲気だったのに突然そんなことを言い出した彼女にオレ達は驚かずにはいられなかった。…いや、ネッグウォーマーよりは聞きなれた単語だけど、普通高校生へのプレゼントにはしないだろ…!
(つーか、篠岡が選んだらどうするつもりだったんだろう…)


『大事にしてねー、三橋っ!』

「う、んっ!オレ、大事にする、よっ」


…彼女のことは普通に好きだけど、やっぱりプレゼントは選ばなくてよかったと思ったのはオレだけじゃないはずだ。



「そろそろ帰るかー?」

「おう、そうだなー」

「ゴミとかちゃんとまとめろよ。あ、分別もしとけよ」

『はーい、お母さんっ!』

「誰がお母さんだっ!」


そのうち9時を回ったのでそろそろ帰ろうかってなって、花井の指示を聞きながらゴミの分別とか椅子の片付けとかを始める。なんかあっという間だったなあ。クリスマスなんていつもと変わらない日だって今まで思ってたけど、やっぱりこういうのって楽しいな。…終わっちゃってちょっとさびいしいかも。

片付けを終えてみんなで外に出た。外は寒くてみんなでさみーって言いながら手袋とかで防寒しつつ急いでチャリ置き場まで向かった。


「…もうすぐ今年も終わりだなあ」

「……だな」

「なんだよ、辛気くせーぞ!オレらまだ1年だし時間ならいくらでもあんだろ!」

「そ、そうだよねー」


誰かがしんみり言った言葉でふと思い返す。そういえばオレ達今年入学したんだっけ。毎日一緒にいるからなんかずっと一緒にいた気がするし、これからもずっとこんな日々が続くと思ってた。でも、あと2年なんだよな。

考えてみたら不思議だ。全然知らなかったヤツらが同じ高校の同じ野球部に偶然入って、こうやって特別な日を一緒に過ごしてる。それって当たり前のことかもしれないけど、すごいことだよなー…。


「行こうなっ!甲子園!」

「…お前はまたそんな軽くっ、」

『行こうぜ甲子園ー!』

「…だなっ!」


高校球児にとっては本当に夢である甲子園。春に阿部から言われた時は実感わかなかったし無理だと思った。でも、今なら。コイツらと一緒なら不可能じゃないってそんな気がする。オレ達は顔を見合わせて、笑い合った。永遠には無理だってわかってるけど、こんな日々ができるだけ長く続けばいいって心からそう思った。







ありふれてる大切なこと
(三橋ー、腹巻きどうっ?)(え、つけてんの?)(あったかい、よっ!)(マジ?)(う、ん!)(…なんかちょっと欲しくなってきたんだけどオレだけ?)(…実はオレも)


そらさま、企画ご参加ありがとうございました\^^/

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