短編2
□理由はぜんぶ"好きだから"
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『阿部、』
今日、同じクラスの隣の席のヤツに放課後呼び出された。呼び出されたっつーか、顔を赤くして目を逸らしながら『今日放課後残って』って言われた。
…それが好きなやつなら何かを期待しちまっても無理はねーと思う。決してオレの自意識過剰とかじゃない。…と、思う。
『阿部、お願い』
名前を呼ばれた。オレが彼女の方を見ると苦しそうな顔で懇願するように『お願い』と言った。オレは黙って彼女の次の言葉を待った。なんていう言葉かは予想できないけどこれは確実に告白だ、と思っていた。
だけど、彼女の次の言葉はオレの期待をこれでもかというほど裏切るものだった。
『阿部、お願いだから…死んでくれない?』
「……は?」
耳を疑った。コイツ、今何て言った?え?オレの空耳…『は?じゃないよ。死んでくれって言ってんの』…じゃ、ないらしい。
「ワケわかんねーんだけど」
『わかるでしょ。死ねって言ってんの』
「…喧嘩売ってんの?」
告白だと思った。好きな子が、オレのことを好きだと言ってくれると思い込んでいた。なのに、死ね、だって?ギロリと睨んだら彼女は少しびくっと肩を震わせたが『何よ』と睨み返してきた。
(何よ、じゃねーよ)(…期待して損した。コイツはこういうヤツだった)
「いきなり死ねって言われてはいそーですかって死ぬヤツなんているワケねェだろ」
『だってアンタが死ななきゃ私が死んじゃうもん』
「は?何で?」
『う…な、何でもっ』
全く意味がわからない。いつも支離滅裂なことを言うとは思ってたけど、今日はとことんコイツの考えてることが読めない。オレが死ななきゃ自分が死ぬなんて言い出すもんだから理由を聞いたら何故か頬を染めながら目を逸らす彼女。ワケがわからず深く溜息を吐く。
「言いたい事それだけなら部活行くけど」
『ちょ、待ってよ!』
「何?」
『アンタ人の告白をスルーする気!?』
「……は?」
告白、だって?何言ってんだコイツ。つーか死ねとか告白とかけ離れてんじゃねェか。あ、自分の感情を告白したっつー意味ではある意味告白?…なんかコイツのせいでオレまで変なこと言ってる気がする。
そう思いながら彼女を見る。彼女は相変わらず真っ赤な顔をしてオレを見ている。握り締めている拳が少し震えていた。…ちょっと待て。なんか様子がおかしい気がする。コイツなんか…緊張、してる?
「…あのさ、告白って、どういう意味?」
『は?告白っていうのは自分の気持ちを伝えるって意味でしょ、何言ってんのあんたバカ?』
「(…殴りてー)そうじゃなくて、どういう意味の告白かって聞いてんの!」
『……っ!』
見下した目でバカにしたようにそう言ってきた彼女にカチンときてちょっと喧嘩腰にそう尋ねる。すると彼女は赤い顔を更に真っ赤にして言葉に詰まらせた。…マジかよ。
「…死ねとか告白じゃねーだろ」
『はぁ?立派な告白だし!』
「どこが?」
『…っ、だから、阿部が好きすぎて死にそうって意味!』
…だからって好きなヤツに普通死ねとか言うか?わかりずれー。…とか思いながら、こんな可愛くない遠まわしすぎる告白をしてくる彼女を愛しく思うオレも相当おかしいよな。そう思いながら彼女をそっと抱きしめた。
理由はぜんぶ"好きだから"
(なあ、本当にオレが死んでもいいのかよ?)(ダメ、阿部が死んだら私生きていけない)(…意味わかんねーヤツ)
何この電波彼女…!