□萎れた薔薇
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あの人なんてキライ

勝手に私を美化して
いきなり結婚を迫って
ねえ、貴方はちゃんと私を視てる?

だって今日に限って現われないじゃない


それに何より
貴方の大き過ぎる父性が

父上とは全く違うのに

縋って足元を崩して仕舞いそうな其れが怖いのよ



何考えてるのかしら…私




*********


「姉上?ボーッとしてどうしたんですか?」
「え?あら、何でもないのよ新ちゃん」

にこり、微笑む顔は
他人が見たら解らないくらいに完璧

でも僕の目は誤魔化せない
誰よりも姉上を知っている

と思いたい気持ち半分


それにしても
今日の姉上はおかしい
誕生日だから感傷に浸ってる?

いやいや、姉上に限って
それは先ずない

と、自分のフィルターを通して視る


「近藤さん‥」も来ないし平和ですね、と云う前に

「え?」

ピクリと姉上の肩が
少し、ほんの少しだけ動く


その瞬間理解して仕舞った

今のは一瞬の期待

ああ…厭だ
姉上を、愛する女性を他の誰かに盗られるなんて


「そろそろ姉上の誕生会ですよ」
「悪いけれど新ちゃん先に行っていてくれるかしら?」

何故?と目で問えば

「女ノコには色々準備があるのよ」
有無を云わせぬ笑顔に
僕は家を後にした





**********


何時もより丁寧に髪を結い
紅を引く


そろそろ時間だ


戸締まりを確認して
家を出る



あれは、
見慣れた背中
見たくなくて仕方ない背中

そして
癪だけれど今日一日
私の思考に入ってきた
憎たらしい背中


うろり、うろうろ、
行ったり来たり


「あら、近藤さんじゃありませんか?人の家の前をうろついて、ストーカーですか?精が出ますね、死ねば好いのに」

にこり、声を掛ける

「おっ、おっ、お妙さんんんん?!」

私に会いに来たクセに狼狽えるなんて


「うふふ、こんな所で何してやがるのかしら?」


ごくり、聴こえる程に喉を鳴らすと


「お妙さん、あの、お誕生日おめでとうございますッッッ!!!」


ご丁寧に頭を下げ両手で差し出されたのは薔薇の花束

(ベタな人)


何時から待っていたのだろう
瑞々しかったであろう
薔薇達は所々萎れている

何時もなら飛び付いてでも渡しに来るのに


「柄じゃないですけど…」
首の後ろに手を当て俯く
頬まで染めて莫迦みたい



でも何だかその様子が
ほんの少しだけ意地ましく見えたものだから


「気持ちは遠慮しますが、ソレは頂いて行きます」

不覚にも受け取って仕舞った




「あ、あ、あ、有難う御座居ます!お妙さん!!!」

恭しく頭を下げる近藤の脇を何も云わずに擦り抜ける

只の出来心で片付けるには
あまりに揺れる気持ちに蓋をして


(有難うは私なのに…)




********



姉上が萎れた薔薇を大事そうに抱えてやって来た

多分アレは近藤さんからの…

あんなに避けている男からなに受け取ってんだよ


新八は痛くなる程、奥歯を噛み締めていた




*********



自宅に帰る道すがら

立ち止まる新八に腕を取られる

「姉上は何時までソレを大事そうに抱えているつもりですか?」

「新ちゃん?」

「ソレ近藤さんから贈られた花でしょう?」

視線だけ妙の胸に抱かれた薔薇に遣る

「気分、かしら」

「じゃあ何故、他の人からの贈り物は僕が持ってんですか?」

「だって、私には花が似合うでしょう?」

「そんな萎れた薔薇が、ですか?」


妙は俯く
真直ぐ過ぎる弟の眼差しを直視出来ない


「新ちゃん…これは…」
声が震える

「姉上は、あのゴリラが…近藤さんが、好きなんですか?」

とんでもない言葉を突き付けて来た弟は
妙から花束を奪うと、それを振りかざす

けれど、優しい弟は
その命には当たれず

がくり、地面に膝を着く


「新ちゃん…、」
同じ様に膝を着き
あやすみたいに抱き寄せる


「姉上、姉上、姉上…妙…」
「ちょ、何をするの…ッ」

首筋に、まだ幼いと、可愛いと思っていた弟の舌


「止めなさい、新ちゃん」
新八の頬に乾いた音

「僕は姉上が好きなんです、誰のものにもならないで…」

月明かりに照らされた顔は男そのもの


「そうね、私は誰のものにもならないわ」
新ちゃんのものにも


「さ、お家に帰りましょう新ちゃん」

何事もなかった様に
にこり、微笑み手を差し出す

その手を握る

「姉上、産まれきてくれて有難うございます、次は」
被せる様に
「次も新ちゃんの姉に産まれて来たいわ」



萎れた薔薇を抱えた妙が
怖いくらい綺麗に笑った




*********




妙は部屋に戻ると
活けた薔薇に目を遣る

心なしか元気を取り戻したみたいだ

打たれても、打たれても
息を吹き返すあの人みたいに


全く今日の私と弟はどうにかしていた


多分、あの人の
強すぎる父性を一欠片でも受け入れた毒に当てられたのだ



やっぱり、あの人なんて
大キライ






おしまい
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