*Third Story*

□離れても、心は一緒
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少しずつ寒くなっていく風にいつの日かいつもの制服は長袖になって。

早めに落ちる太陽は夏の終わりを告げるようにあっさりと沈んでいく。


バタバタとせわしなく終わっていった夏休み。


私の心に刻まれた想い出は柔らかく、温かく。


今日食べたものとかみんなで奏でた曲とか。

昨日だって一昨日だって他愛ないメールのやりとりをして、それでも満たされない心。



――新くんに会いたい。




毎日のように会っていたあの日々がより感情を加速させ。

好きならそんなこと関係ないよ、なんて付き合った当初は笑顔で言っていたのに実際はずっと辛く。



寮へと向かう夕暮れの帰り道に映される影は一つだけ。







「かなでちゃーん!」

「きゃっ…」


突然後ろから重なった影。

温かい腕も一気に元気になってしまうほどのその声も、姿を見なくたって一人しかいない。



「新…くん!」

「はぁーやっぱ落ち着くな。かなでちゃんの身体。」

「って…えっ!なんでここに?」

「何でって…会いたかったから。」


久しぶりに会った感動を味わう暇もなく驚きが支配して。


混乱する頭とは裏腹に、感じる気持ちは不思議なほどの安心感。



「かなでちゃん、淋しかったでしょ?」

「…うん。」

「だから来たんだよ。かなでちゃんに会いに。」


離れてたってお見通しなんだから、と笑う。

まるで夏の太陽を思わせるようなその笑顔は一瞬で時を戻して。



「電話やメールじゃ足りないって思ってたでしょ?」

「なんでわかって…」

「だーから言ってるじゃん!かなでちゃんの気持ちなんてわかっちゃうんだよね。俺には。」

「じゃあ私は今何考えてるでしょうか?」

「今…今はね、」



目と目が重なった瞬間、甘い甘い口付けをかわして。


恋人同士の証だね、なんて初めて交わしたキスからもう何度したかはわからないけれど。




いつだって新くんのキスは私の全身を痺れさせ。





会えなかった一月分を取り戻すように、何度も何度もキスをする。







「俺にこうしてほしいって、思ってた。」

「……………。」

「もう、真っ赤になっちゃってホントにかわいいなー。そんな可愛い顔されると、」



俺だって止まらなくなっちゃうよ、なんて囁いた後に優しく抱き締めて。


止めないでいいよ、とはまだ言えないけれど…いつかは、きっと。




離れても、心は一緒



(何で私の気持ちわかっちゃうの?)
(何でって、それは…愛だね。)




fin
 

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