蒼の民の血と共に

□Y.ちりょう
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日も暮れかけている社の中、シオンは銀の皿を前に立っていた。
輪に連なる鈴を鳴らしながら、ナイフを片手に言葉を紡ぐ。

「……天より授かりし蒼の民の血(ブルーラムン)よ
その癒しの力を持って病に侵されし人々を苦しみより解き放て
我(こ)の痛み 只 其の為に存らん事を」

シャンと鳴りひびく鈴の音と最後の言葉が響くのと同時に腕にナイフを走らせる。
切り口からこぼれ出る液体を目の前の皿へと注いでいく。
しばらくして血が止まり、傷つき汚れた腕を清潔な布で拭う。
この言葉は代々蒼の血の民に伝わってきた採血の儀式の際に用いるものだ。
私たちの血は万能の薬となる。
けれど、決して奢ることなかれ。
痛みも感じる私たちは、決して神ではないのだから。
そんな自戒の意味もこめられているこの言葉をシオンは気に入っている。
初めに教えてもらったのは、キャラバンの教師役を務めていたオババから。確か、6歳のことだったと思う。
ふと感じてしまった郷愁を振り払うように頭を振る。

普段はあまりこの儀式は行わない。
血をそこまで多量に要することはほとんどないし、必要な際にはその場で腕を切りつけることが多い。
薬の調合も少しずつ行うようにしているため、指先につける傷からの血液で十分事足りるのだ。
それなのに今この場でこの儀式を行っている理由。
あまり医者が言うべきことではないが、嫌な予感がするのだ。
だからこそ少しでもその不安を振り払うために備えを万全にしているのだ。

「この薬も、無駄になればいいんだけど」

そう思いながら、明かりの差さない道をじっと見つめつづけていた。



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