蒼の民の血と共に
□W.わかれ
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翌朝、昨夜とは打って変わった晴天のもと三人は宿を発った。
男があまりにも普通に道を行くものだから、てっきりこのあたりに詳しいのだと思っていれば、ただ東に進んでいただけだった。
シオンはすっかり呆れてしまったが、太陽が昇りきる頃には無事街道へと辿り着くことが出来た。
街道は人で賑わっていて、足を休めるための店で少し休みを取ることにした。
「ラム酒を一杯もらおうか。それと」
「同じのでいいよ」
「私はエールで」
リィが酒を頼んだのは気になったが、それよりも早く疲れを取りたかった。
ライモールやバルドウについてなんて、変わった会話をしている二人を眺めながら、シオンはゆっくりと喉を潤していく。
そんな時二人の背中越しに見える二人の旅人の会話が耳に入ってきた。
「――王様の後見役だったフェルナン伯爵などは、牢屋へ入れられてしまったそうで・・・」
その言葉に男はピクリと反応し、女の目は驚きに見張られ「うそ・・・」と呟いた。
少女はそしらぬふりをしながらも注意深く背後の会話に聞き耳を立てていた。
隣の男も同じくらい熱心に聞いていたのだが、目の前の女は何も聞いてないのかもしれない。
とうに空になった器をただ握っているだけであった。
やがて旅人二人は立ち上がり、西へと向かって歩いていった。
しばらく座り込んでいた男は立ち上がり、歩みを続けようとした。
「待って」
しかしその行動は、女によってさえぎられる。
「私、ここで別れるわ」
「俺はかまわない」
返答は即座に帰ってきた。
ひょっとしたら、ウォルのほうから言い出すつもりだったのかもしれない。
「私が行っても、きっと足手まといになるだけだわ。東へ向かう商人を探して同行させてもらうことにする」
シオンが述べる考えを、男は黙って受け入れた。
少女は突然の申し出に驚いているようだった。
「今すぐに別れちゃうの?」
「ごめんね、リィ。これ、あげるわ」
荷の中から小さな瓶を取り出しリィへと渡す。
「私の作った傷薬。よく効くから使ってね」
そして男の前に立ち、小さな声で言う。
「フェルナンおじさまのこと、助けてもらえる?」
「無論だ」
それだけの言葉を交わして三人は別れた。
ウォルとリィは東へ。
シオンは同行者を求めて宿屋へと。