いつか
□第九話
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「さて試験内容ですが、試験官の伝言です。生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間」
それだけを告げると受験生を下ろしあっという間に飛び去っていく飛行船。
すばやいな、とぼんやり見送る。
さてここで問題があります。
私、この試験どうやって合格しようか決めてません。
だってだって。
どこでもドア使っちゃうのってあんまりにも卑怯な気がするし、ちょっと運試し的にどの道にあたるのかも知りたいし。
う〜ん、と悩んでいるとアイウモリがぎりぎりの場所から下を除いているのが目に入った。
何か重要なことを忘れている気がする。
アイウモリがその場所を離れゴンとキルアが変わりに下を覗き込んだ時点でようやく思い出した。
「大変だ!」
ギャーッと心の中で叫びながらこれでもないそれでもないと道具を放り出しながら目的の物を探す。
投げ出されたガラクタが山を作り始めたところでようやく発見。
「桃太郎印のきびだんご!と必中ゴムパチンコ 」
だんごを手にとり必中ゴムパチンコにセットして力の限りゴムを引きポーンと放つ。
だんごは一寸も狂わずこちらに向かっていた怪鳥たちの口の中に吸い込まれた。
ゲッゲと鳴きながら迫ってきた怪鳥たちはぴたりと鳴きやんでこちらに顔を向ける。
「えっと、顔をこっちに向けないで。キモイ。じゃなくて」
ごめん、生理的に受け付けないこの鳥。
顔に個体差があるのに全部気持ち悪いってなにごとだよ。
「そうだ、この塔にお仲間近づけないでいてくれたらいいよ」
ゲッゲッ
相変わらず不気味な声で鳴き塔を守ろうとしているのか周囲を飛び回る姿は健気・・・・・・やっぱり無理、どうがんばっても見ても不気味なものは不気味。
「若菜!すごいや!今何したの」
目をきらきらとさせて走りよってくるゴンを見て、視界が正常になる。
「きびだんごをあげたの。おっこしにつけた〜きびだんご〜」
「何突然歌いだしてんだよ」
キルアは不可解な者を見る目でこちらを見る。
その様子を見ていたらしいクラピカとレオリオもやってきて話は続く。
「きびだんご、とはたしかジャポンの菓子のひとつでキビという穀物を用いた団子であったと記憶しているが」
「へ〜、そうなの?クラピカって博識。私は近所のおばあちゃんによくもらってたから普通におやつって感覚だけどね」
「で、結局どうやったんだ?」
レオリオはやたら積極的に聞いてくる。
ひょとしてその方法であの鳥を手懐け下に降りようと考えているのかもしれない。
私なら絶対にしないけど。
「クラピカは『ももたろう』知ってる?」
「いや、どのような人物だ?」
「えっと、短いお話だけど正直あの鳥を視界に入れるのに絶えられなくなりつつあるのでこの本をあとで読んでね」
昔なつかしももたろうの絵本。
古本屋で見つけて思わず衝動買いしてしまった一品。
「あとでってな、今試験中だろうが。いつ読めって言うんだよ」
「え?試験をさっさと終わらせて残った時間に」
う、そうだなと言葉を詰まらせるレオリオ。
まあ本当は50時間も過ごす羽目になるあの小部屋ででも読んでという気持ちで渡した。
「じゃあ、私は行くね。大丈夫、隠し扉は今ここにいる人よりは多く残っていたから。下で会おーねーー」
「え、っておい若菜!?」
「捨て台詞をはいていくな!」
一歩後ろに下がり軽く飛んで言葉を発しながらすとんと落ちた。
捨て台詞だなんてそんな、ただのアドバイスじゃん。