山田花子ものがたり

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いつもは落ち着いた様子のレイブンクローの談話室も今日は少しばかりざわついていた。
原因は先ほど張り出されたホグズミード休暇のお知らせ。
今年度最初のホグズミード行きはハローウィンに決定したようだ。
生徒たちははしゃいだ声をあげ、先輩たちの話も聞きながら計画を立てる。
ハニーデュークスに行って新商品を。それもいいけどマダム・パディフットの店なんかオススメよ。やっぱり叫びの屋敷は外せないよな。
そんな中で花子は少しうつむき加減に何かをじっと考えているようだった。
やがて考えがまとまったのか一度強く頷いてから足早に掲示板の前を立ち去っていった。



ハローウィン当日。
ようやく迎えたホグズミード行きの日。
生徒たちでごった返した通りを駆け抜ける一人の少女がいた。
ふわふわの髪を振り乱しながら必死で走るその少女は花子であった。
よっぽど急いでいるのか忙しなく動かされる足は道の半ばでもつれてしまい大きな音を立てて花子は転ぶ。
そしてしっかり握り締められていた手のひらから硬貨が数枚転がっていく。
花子は慌てて起き上がり硬貨を拾い集めるが、どうしても足りないのだろうか。
その目に涙を浮かべながら地面を必至に見つめている。
そんな花子に様子をうかがっていた生徒の一人がそっと声をかける。

「ミス山田。どうしたんだい」
「お金を、落としてしまって…。みんなに、見せてあげたいなって、思ってたのに」

そう言って辛そうに俯く花子の眼からついに抑えきれなくなった涙がこぼれだす。
はらはらと零れ落ちる涙にしばらく見入ってしまったが、はっと我に返り小銭を数枚手渡す。
突如渡されたものが何だかよく分からずに花子は少しの間きょとんとしていたが、次第にその目が見開かれていく。

「これ…。いいの?」
「ああ。少ないけど足しにしてくれ」

ぶっきらぼうに告げた言葉ではあったが紛れもない本心を受け花子は満面の笑みを浮かべ、ありがとうと礼を述べた。
その笑顔に周りにいた連中も次々と硬貨を差し出していったのだった。



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