花、咲く
□六輪目
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最近なじんできた部屋に私の主観で久しぶりに帰還する。
日付も表示される時計を見ると、あれから半日程度しか経っていない。
先ほどまでいたところが魔獣の跋扈する世界だったのでここぞとばかりに暴れてきたおかげでだいぶすっきりしている。
さてこれからどうしようかと考えているとコンコンと控えめに扉がたたかれた。
「はい、どうぞ」
「あ、綾乃ちゃん。起きてて平気なん?」
ひょっこりと顔をのぞかせたのは蜜柑ちゃんだった。
その後ろには蛍ちゃんと花乃子もいる。
「どうしたの?」
「あのな、ウチ綾乃ちゃんの具合が悪いって聞いて心配してん」
「綾乃ちゃん、平気?」
こちらを伺うその様子があんまりに小動物じみていたので思わず笑ってしまった。
「まあ、元気そうでよかったわ。これお見舞い」
「蛍!ウチが病気になってもそんな物持ってきたことなかったやんか!」
「気のせいよ」
ギャーギャー騒ぐ蜜柑がおもしろくてまた笑う。
「ゆっくりしていって。今日学校であったこと、聞かせてもらえたら嬉しいわ」
「そうやった。ウチ綾乃ちゃんを誘おうと思ってたんや」
「何に?」
それからの蜜柑ちゃんの話を要約すると。
翼先輩にストレスの行き場を楽しいことにすりかえてやればいいと言われたので実践したら、いつのまにかクラス中を巻き込んだドッジボール対決に発展。
今日のところは引き分けで次は違う種目でリベンジしてくるから、そのときは一緒にしよう。
ということらしい。
ちょっと休んでよかったと思ったのは別にかまわないわよね。
「そういうこと。別にかまわないわ」
「ホンマに!?」
喜んで騒ぎすぎる蜜柑ちゃんを蛍ちゃんが引きずって連れて行く。
私は花乃子と部屋に残された。
「ねえ、花乃子。ママがママじゃなくなってもいい?」
「いや」
先ほどまで話を聞いていたかどうかも分からなかったのにはっきりと否定してくる。
必死にこちらを見て訴えかけてくる。
「ママはずっと一緒じゃなきゃいや。ママは違うの?」
「違わないよ。けどね、私はママじゃなくてお姉ちゃんになりたいの」
「お姉ちゃん?」
そう、と言って話して聞かせるのが手紙のこと。
私の『両親』があなたを養子に迎え入れてくれること。
そしたら法的には姉妹になるということ。
小さな子供にも分かるようにゆっくりと言って聞かせた。
「ママじゃなくなっても、ずっと一緒?」
「うん。約束」
この子は私のせいで今ここにいるのだから。
必要となくなるその日までずっとそばにいると誓ったのだから。