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□Seeker
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おかしい。これじゃああんまりだ。
「なあ、おい」
何故目の前にいる男はこんなにも笑っているのか。おかしい。真選組に追い詰められているはずなのに。どうしてこんなにも余裕なんだ。
「っ……」
むしろ私に余裕がない気がする。おかしい、これじゃあんまりだ。まるで私が追い詰められているみたいじゃないか。
「なあ」
高杉晋助、A級犯罪者、過激派攘夷志士、敵
そんな男は絶えず私に手をさしのべていた。その手を見つめてから一刹那が経ったのか、一時間が経ったのか、私には分からない。
ただ、その手に私が揺れ動いているのは、嫌というほど分かった。
彼の手を取ることが裏切りである事なんて百も承知だ。近藤のためにならない事も百も承知だ。しかしその手を切り落とそうとは思えない。
「どうした、何かしてみろ」
畜生、何でそんな事を高杉何かに言われなきゃいけないんだ。でも自分を省みれば権利すらなく。私は本当に、何をしにここまで来たのだろう。というか、この男は私に何をしようというのだ。その手を取ったところで、私はきっと牙を剥き、お前の全てを壊すだろうに、真選組なのだから。
いや、まさか……真選組を、過去にさせようとでもいうのか。
阿呆らしい、メリット何か欠片も存在しない。狂ってる。
「……」
それとも、私は。いや、馬鹿らしい。それこそ喜劇でも悲劇でも何でもない、イカれた結末だ。
「それとも、どうした、何困ってやがる」
その言葉があまりにも図星すぎたせいなのか、ついカッとなった。手が震えるのを無理矢理に押さえつけ刀を抜く。
だがそれはあっさり高杉の刀で叩き飛ばされ、後には女々しく右手を左手で押さえる私のみが残った。
丸腰の私を嘲るように、彼は笑う。
「ほら」
そしてあきれたようにまた左手を伸ばしてくるのだ。小さい子供をあやすように、反抗期の子供を手なずけるように。
「……」
私は何か言いたかった。いや、何かを伝えたかった。でも口は私でも理解できない形をいたずらにつくるばかりで、肝心の声は伴わない。
「……」
時間が過ぎる。
私が高杉晋助と遭遇してからどれほど経ったのかは分からない。しかし、時間が過ぎる事は嫌というほど知っていた。
時間が、迫る。
きっと援軍が駆けつけるまで、時間がない。
決めなければ、決めないと、それとも判断を援軍という他人に任せたいのか、決めないと、手遅れになる。
ああ、そうか。成る程。
私はずっと迷っていたんだ。私はずっと決断から逃げていて、今そのツケを一気に引き受けているのだ。
「……」
彼とは、二度と会えなくなる、
高杉を取り逃がした罪として切腹を言い渡されるか、私が率いた援軍に高杉が捕らえられるか。
でも、たったひとつ、ひとつだけ、
可能性がある。
それを私に歩めというのか、いや、決めるのは私自身。
「……責任はちゃんと取るよ」
Seeker
消えていく事は逃れたかった
「高杉、私は、アンタに惚れた」