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□立海雛
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「さて、皆、ここで役の割り振りを決めてしまおう」
「や、役?」

ブン先輩はいつものように風船ガムをふくらませる。
仁王先輩は何かもの言いたげに首を傾げていて、柳生先輩は眼鏡をかけなおす。
すると、幸村部長がにっこりと微笑む。

「いや、その必要はないよ。実はもう決まってるんだ」
「え?・・・だから、何が?」
「ああ、すまなかった。これだ」

柳先輩が俺に一枚の紙を渡す。
柳先輩から渡された紙をきょとん、とつつ眺めると、横にブン先輩や仁王先輩、柳生先輩、ジャッカル先輩が集まる。
そんでもって、口をそろえて。

「「「「「立海雛?」」」」」
「そうだ」

すると、幸村部長が楽しそうに説明する。

「今日はひな祭りだけど、雛人形とか出さないでしょ?だから、俺たち自らで雛人形をやってみようと思って」
「・・・まあ、あれか?要するに、実物大雛人形?コスプレとかの類じゃろ?」
「簡単に言えばね」

にこ、と微笑む幸村部長は何だか楽しそうだ。
それに比べて、真田副部長の眉間の皺がいつもの倍深まっているのを見ると、全部賛成したというわけではないのだろう。
まあ、真田副部長は幸村部長大好きだからねぇ・・・
俺ははいはいはい!、と言いつつ、挙手をする。

「幸村部長に質問しまっす!」
「うん、何だい?赤也」
「何でそれをやろうと?」

その瞬間、ピキン、と空気が凍てついた。
先輩達の顔がそれを聞いたらだめっ、と叱ってくる。
そう、立海の幸村部長の最強ぶりは立海部員を制覇する。
幸村部長は何があっても一番敵にまわしてはいけない、と誰しもが気付いているのだ。
よって、幸村部長の立案(っぽいもの)の理由追求・批判などは自ら水に濡れて、金属の鎧を着、高いところで雷が落ちるのに飛び込むくらいの危険性をもったダブーなのである。
しかし、これを無効化する者もいないわけではない。
そう、特にこの立海で可愛がられているこの後輩は僅かな確率でも他の者よりダブー回避の確率が高いのである。


「ん、それはね。俺らの受験も終わって、一段落ついたから・・・息抜きをしようと思ったんだよ」

言ってはいけない。
この時、誰しもが『いや、息抜きぐらいは自分ひとりでも十分やれる』と思ったことを。

「それに、俺らはもう卒業だから・・・良い思い出作りに、ね?」

言ってはいけない。
この時、誰しも『良い思い出はほしいが、こんな思い出ははしくない』と思ったことを。
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