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□かっこいいと渋い
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相手が右側にロブを上げた。
やべ。
ネット際にいる俺じゃ、あの高さは無理じゃん。
俺は急いで下がろうとする。
でも、目線はボールに釘付けで。
しかし、ボールの方が速い。

「ちくしょッ・・・無理か!?」

すると、俺は急に思い出した。
ああ、そうだった。
そういえば、この試合。
俺は大声で後ろに叫んだ。



「頼むッス!」



俺がそれを言う前に、もうその人はボールに狙いを定めていた。
手を前に出して、ラケットを振り上げている。
スローモーションのように、ロブで上がったテニスボールがゆっくり落下してくる。
その人はいつもの微笑みを浮かべたまま、ラケットを振り下ろした。

「ラッキーチャーンスッ☆」

そのボールは勢いをもって、相手のコートに向かっていく。
そして。
相手の足元で弾んで、コートの奥の壁に当たった。
ころころ、とテニスボールが転がる。
点数が入った。
スマッシュエース。
その人の元に俺は歩み寄った。
ポジション交代のためでもあるけれど。
通り過ぎる少し前に、手を顔くらいまで上げる。
その人も同じようにする。

「渋いッスね!」

軽くハイタッチ。
その人・・・千石さんは少し嬉しそうに微笑んでいた。
その後、ベンチから声が飛んでくる。

「は〜い、そこのバカップル。いちゃつかな〜い」

俺と千石さんはベンチを向いた。
そこにはしらけた、とでも言うような表情でベンチに腰掛けるブン先輩。
その横には、テニスラケットのガットが緩んでないかチェックしている仁王先輩と柳生先輩の姿があった。

「まあ、そう言いなさんな。チーム組んで初めてダブルスやっとるんじゃから」
「折角なので思う存分やらせておいた方が良いですよ?ダブルスを勝利するかしないかではこちらの心構えも違いますから」

あくまで冷静に言う二人。
ブン先輩は適当に返事すると、ガムを風船状に膨らませる。

「んじゃ、まあ、あとは適当に勝っちゃって」
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