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□立海雛
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「そういや、今日は雛祭りじゃね?」

ブン先輩がぽつん、と呟いたこの言葉が全ての始まりだった。
きょとん、としつつ、俺はブン先輩を見る。
いきなり、どうしたんだ?

「ええ、そうですね」
「あー・・・前は姉貴がよう雛人形とかだしとったのぅ」

仁王先輩がしみじみと言う。
ああ、俺ん家も姉貴がいたから、よく出してたっけ?
今じゃ押入れに永遠と眠ってるけど・・・

「ああ、あと、歌を歌ったりとか、な」
「あかりをつけましょ、ぼんぼりに〜♪って奴ッスね!」

俺がそう歌うと、ブン先輩は悪戯を思いついた笑みを浮かべる。
ああ、嫌な顔。
俺は若干、心に覚悟を決める。

「違ぇよ」
「ああ、替え歌とかの方覚えてるんスか?」
「立海式雛祭りの歌はもう幾つ寝ると〜♪だろぃ?」
「はあ?ブン先輩、それって、正月じゃ・・・」

ブン先輩がちらり、と仁王先輩の方を見ると、仁王先輩もにやり、と微笑んだ。
げ、組んだ。
組みやがった、この人らっ!
俺はその些細な変化を感じつつ、助けを求めに目を動かす。
柳生先輩は気付いているのか、最悪の場合は助け舟を出しましょう、という表情をしている。
柳先輩はノートをぺらぺら、とめくって何かを確認している。
真田副部長と幸村部長は何やら紙に書いて、打ち合わせをしているようだ。
ジャッカル先輩はというと、自分に災難がかからないように目を合わせないようにしている。

「正月じゃねえだろぃ?お前、知らねえの?」
「し、知りませんよ」
「しょうがないのぅ。俺らが歌ってやるぜよ」

それから、ブン先輩と仁王先輩が二人で声を合わせて歌い出す。
それも、事前に打ち合わせでもしていたのかのように、息ぴったり。

「「もう幾つ寝ると、ひな祭り〜♪ひな祭りには雛あられ、赤也を弄って遊びましょう〜♪はやく、こいこいラッキー千石」」
「・・・・・・・」

俺はもうとりあえず愛想笑いをするしかなくなり、ただただ微笑む。
もう、色々な限界を超えて笑いしかでない。
それから、柳生先輩が話題をそらすように扉のほうを向く。

「そういえば、千石君。遅いですね」
「って、本当に呼んでるんスか!?」

俺は柳生先輩の意外な一言に目を瞠る。
先輩達はもう一度あの音程で。

「「は〜やくこいこいラッキー千石〜♪」」
「いや、もうそれは良いッスから・・・」

横から柳先輩が介入。
ぬ、と現れたように感じて、俺の体はびくり、と跳ねる。
思わず、わあ、なんて言ってしまったり。
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