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□走れ!謙也!!
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謙也はヘタレていた。
必ずやかの愛しい後輩に美味しい白玉ぜんざいを食べさせてあげなければ、と決意した。
謙也は政治は分からぬ。
・・・謙也はアホだからである。
謙也は大阪でスピードスターを自称するただの平民(と書いてヘタレと読む)である。
謙也には父も母も妻もない。
・・・すみません、嘘つきました。
父と母はいらっしゃいます。
同い年の妹(?)を含めた普通の核家族であった。
しかしながら、謙也は思った。
一体、何故このようなことになったのか、と。
それは、今から数時間前にさかのぼる。















【走れ!謙也!!】













謙也は一日ぶりにこの町に足を踏み入れた。
理由は勿論、母である白石からのおつかい、というのもあるが、ほとんど謙也自らこの町に来たかったという極単純なものであった。
謙也は気分良さげに町を歩いていれば、急に後ろから服の裾が引っ張られた。
何や?と首を傾げつつ、後ろを振り返れば、そこには彼のかわいい後輩兼この町の王・財前光が甘えるようにこちらを見ている。
内心、なんてかわええ目しとるんや!と反射的に頭を撫でてしまう。

「光やないか!どないしたん?」
「謙也さん、俺、あれ食べたいッスわ。いつもみたいに奢ってくれはりません?」
「あれ・・・?」

謙也は財前の指差す方向を見た。
そこには財前大好物の白玉ぜんざい。
ああー、と納得した謙也は、とりあえず微笑を浮かべた。
その微笑に期待を寄せるような目の財前。
しかし、謙也から返ってきた答えは期待はずれなものだった。

「・・・無理や」
「は?無理?」

財前は少し目を丸くする。
もしや、聞き間違えではないか、と僅かな期待をこめてもう一度聞いてみる。

「無理?」
「おん」
「どうしても?」
「せやな」
「ほんまに?」
「ほんま」

僅かな沈黙が二人の間を流れた。
財前は大きく、それは大きくため息をつく。
そして、一言。

「・・・・つかえんわぁ」
「ひ、光ちゃんっ!?先輩に何言うとんねん!」
「いや、ぜんざい奢ってくれへん先輩なんて先輩やないし。ぜんざい好きなだけ食わせてくれへん謙也さんなんて謙也さんとちゃいますわ」
「お前、先輩を何だと思ってんねん・・・」
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