text1.5

□待て!財前!!
1ページ/4ページ

何十という部屋。
高級感たっぷりな絨毯に、壁にかけられている名画。
高級木材でつくられた机に椅子に、それから一流コックの美味しい料理。
それでも、召使はほんの数名雇っているだけの此処はあまりにも静かで。
ただ一人の王が住むにはあまりにも大きすぎる城。
しかし、この無音な空間を財前は気に入っていた。
それに、無音だからこそ、大好きなあの人が入ってきた時にすぐに気付ける。
夏の太陽のように暑苦しいけれど、輝く温かい笑顔を向けられるだけで、ほんのりと心が温まった。
しかし、彼とはもう三日会っていなければ、声さえも聞いていない。
携帯で電話をしようともしたが、三日間食べていないぜんざいのことを思い出してしまいそうで、どうにか押しとどめていることに成功した。
財前は自らに問うた。
悪いんは俺なんか?
それとも、謙也さん?
・・・・いや。
全てはあいつのせいなんや。
あいつのせいで俺の計画は水の泡になってしもうた。
あいつのせいや。
あいつの。
・・・・・神尾アキラ、こいつのせいや。












【待て!財前!!】

















いつもは静かなこの城。
しかし、今日は違った。
カツ、カツ、カツ、カツ。
靴の音が鳴り響く。
カツ、カツ、カツ、カツ。
この部屋には二人しか居ない。
カツ、カツ、カツ、カツ。
王とそして人質の二人である。
カツ、カツ、カツ、カツ。
なあ、と一人が声をかけた。
カツン、という音を最後に不機嫌な顔がこっちを向いた。
人質・・・神尾はおそるおそる聞いてみた。

「何で今日はそんなに機嫌悪いんだ?」

機嫌が悪い?
財前はム、とした。
神尾は不思議そうな顔をしている。
その態度に更に腹が立った。

「うっさいわ、ボケ。大体、お前が悪いんじゃどアホ」
「は?俺は何も・・・」
「お前さえおらんかったら、とっくの昔に計画通りにいっとったんや!ボケカス!」

散々文句を言った後、だんだん自分でも訳が分からないとでもいうように財前の瞳は潤み始める。
あわあわと慌て出す神尾。
しかし、両手両足を拘束された身体では頭を撫でてあやすこともできない。
・・・否、むしろ、神尾がそんなことをやった時点で財前の逆鱗に触れて、再起不能なまでに殴られているであろうことは目に見えているのであるが。

「どうしたんだよ、てか、計画って・・・」
「お前には関係ないわ」
「別に良いだろ?どうせ、関係ない奴なんだし、独り言言ってるつもりで話してみろよ」
「・・・」
「言ったらすっきりするって、な?」

じっと神尾がまっすぐに財前を見つめる。
その神尾の面影が謙也と重なってしまったせいであろうか、財前はそっぽ向くと、静かに話し始めた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ