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□何より好きです、大好きです。
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キーンコーンカーンコーン。

鐘の音が響き渡る。

それと共に階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。



今日も俺は太陽の光を吸収したコンクリートに仰向け。

大好きなあの人は屋上の扉まですぐそこ。

心の中で密かにカウントダウン。


サン、



ニイ、




イチ。

バタンッ。







【何より好きです、大好きです。】








「コラぁーーー!財前!!」

叫びながら扉から入ってきたその人を見て、俺はまたか、と身体を起こす。
こんだけ声、大きかったら、一番下の階まで聞こえてんとちゃう?
目の前には相変わらず、教材を持ったままの教師・・・忍足謙也先生の姿があった。
授業が終わって、すぐ来てくれたのかもしれない、と思うと、思わず頬の筋肉は緩む。

「授業、お疲れ様です」
「おお、おおきにな・・・て、ちゃうわ!!」

一人ノリツッコミをする謙也先生に俺はいつも通りに対応した。
この人と関係が変わっても、このやりとりは変わらへん。
それを嬉しく思いつつ、謙也先生の説教ならぬ説教をちくわ耳で受け流す。

「大体、何で授業でぇへんのや!」
「ええー、せやかて、面倒くさいんすわ」
「面倒くさいって・・・教室で一緒に教科書も開いたことないやろ!」
「別に、教科書開く開かんの問題ちゃうし」
「・・・せ、せやけどっ!他の授業には出席してんねやろ!?」
「ん、ああ、あれって古典ちゃうんですか。いやぁ、知らへんかったわ」

わざとらしく言う俺に、謙也先生は沸々と怒りで頭が煮えくりかえっているようだ。

「ええから、授業でろや」
「えー・・・」
「で・ろ・や!」
「どないしよー」
「出席せえ言うたら出席しろや!!」
「うーん、困ったわ」
「財前、ええ加減にせぇよ!!!」

とうとう謙也先生の怒りは噴火した。
教材から個人成績表を取り出し、俺の前に叩き付けた。

「テストと提出物だけじゃ判定は鷹がしれるっちゅー話や!ええから、授業でぇ!!」
「・・・あ、あと五回休んだら、古典の単位足りませんね」
「せや!留年とか、自分も嫌やろ!?」
「ま、留年したら更に一年一緒におれるし、願ったり叶ったりやないですか?」
「踏んだり蹴ったりやッ!!!」

もう気力が尽きたのか、ガク、と項垂れる謙也先生。
ああ、この人、ほんま見てて飽きひんわ。
思わず微笑んでいたら、謙也先生は俺の両頬を抓んでくる。
俺の話ちゃんと聞いとるんかー、て言いながら。
俺は、聞いてまふ、と言えば、はなしてもらった赤くなった頬を手でおさえつつ、謙也先生に聞いた。

「なぁ、謙也先生・・・」
「なんや?」
「俺にそんなに授業出てほしいん?」
「当たり前やっ!」

即答する謙也先生に俺は考える。
そして、言った。

「でてあげましょか?」
「え!?ほんまに?」

嬉しそうにする謙也先生はキラキラした眼差しを俺に向ける。
そんな謙也先生に俺は、但し、と付け加える。

「ただではでぇへんよ?」
「は?」

ぽかん、とする謙也先生に俺はにっこりと笑ってみせた。
ぜんざい奢ってもらうのもええな。
せやけど、それやとおもろないし。
俺は謙也先生との二人っきりの時間を潰してまで授業でるんやから、何か・・・。
すると、俺は良いことを思いついた。
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