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□名前
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「ねえ、切原くん」
「何スか?千石さん」
「俺の名前、知ってる?」
切原くんは目を丸くした。
ねえ、知ってる?
俺の名前。
覚えてる?
俺の、下の名前。
「い、いきなりどうしたんスか?」
「ううん、何でもない」
俺はいつも通り笑顔をつくってみせた。
切原くんは未だに俺の言ったことに戸惑っている。
切原くんと付き合ってまだ少し。
それでも俺的には、「くん」と「さん」からは卒業したいな、とか思ってるんだけど、切原「くん」は違うのかな。
だから、切原「くん」とのデートの帰り道、ちょっと聞いてみたけど。
切原くんはちょっと拗ねているみたいに唇を尖らせた。
「・・・・・千石、清純さん」
ボソ、と。
でも、俺に聞こえるように呟いた。
俺は一瞬、本当に固まってしまった。
驚いて固まったのか、嬉しくて固まったのか分からないまま。
切原くんはそのまま頬を少し膨らまして、不満感を俺にアピール。
そんな仕草も可愛いな、と思ってる俺は結構、末期???
「俺、付き合ってる人の名前も忘れるような奴じゃないッスから」
その言葉を俺に投げかけると、今度は切原くんから聞いてきた。
「千石さんこそ、俺の名前、知ってるんスか?」
悪戯な笑顔を俺に向けて。
だから、ちょっと対抗して、俺も微笑んで言ってやった。
「勿論。君は切原赤也。俺だって大好きな子の名前は忘れないよ?」