BOOK6

□late
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「はい宏太、ビール。」



「さんきゅ。なーこの映画、こないだ大ちゃんが言ってたやつじゃね?」



「ワイルドスピード?あ、そうそう。あたし大ちゃんに借りて観たけど、面白かったよ。」



「ふーん。おれも借りよ。」




二人並んでソファーに座りながら映画をぼんやり観る。過ごし慣れた、よくある時間だ。

だけど、あたしが何もないのに当日急に誘うっていうのは初めてで。流石に長く一緒にいるだけあって、宏太はその違和感に気づいていた。




「で、何かあった?」



「え?」



「や、何か相談とか話とかあるから呼んだんじゃねーの?今日。」




ふわりと揺れる前髪の隙間から宏太はあたしをじっと見つめる。ああ、そろそろまた前髪切ってあげなきゃ。邪魔そうだ。

相変わらず目力強いなあ宏太。




「んーとね、まだ誰にも話してないんだけど、とりあえず宏太には報告しとこうって思って。」




あたし、彼氏出来たの。


そう口にすると、宏太はあたしを見つめたまま、そうか、と一言呟いた。




「優姫からそんなん初めて聞いた。」



「そうだねー。」



「…大学の奴?」



「んー、そうだよ。」




一瞬焦った。そこまで考えてなかったから。それにしても、意外と冷静だな、なんてぼんやりと思う。

これは、ネタばらしのタイミング見失うパターンかも。




宏太は、軽くビールの缶に口をつけて、それをガラステーブルに置くと、ソファーの背もたれに背中を預けて少し上を仰いだ。




「そいつの事、好きなの?」




あたしの顔を見ずに、斜め上を向いたまま宏太はそう聞いた。




「…うん、好きだよ。」




あたしがそう答えると、宏太はあたしに向き直って、へにゃりと少し気の抜けた笑顔を見せた。

ファンの子たちが可愛いって騒ぐ、目のなくなるくしゃっとした宏太の笑顔。だけど、宏太と伊達に長い間一緒にいてないあたしには、今は少し、悲しげに見えた。




「よかったな、おめでとう。」




思ってもないくせに、肝心な時にまで素直にならない宏太に、あたしはイラついた。




「…あのさー宏太さ、こういう時にすら素直になれないの?」




そう言うと、宏太は見てわかるくらいに動揺した表情を浮かべて。




「は?何の話だよ、」



「普段はあたしにすっごいワガママ言うくせに。まあ素直じゃなくてもいいけどさ、こういう時にこそワガママ言えばいいんじゃないの?」



「…あー…まあそりゃ気付いてるわな。うん、悪ぃ。変に大人ぶった。」




自分の気持ちに、あたしが気付いてると悟った宏太は、もう誤魔化せないなと力なく笑った。




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