KRK 's BSK
□灰薬
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ドン、と背中にロッカーがぶつかる。
目の前には、ニヤリと細められた灰色の瞳。
「…灰崎くん…。」
「相変わらず可愛い顔してんのに、オレを見る目は冷てーよなー。優姫。」
お前にフラれた事、まだ忘れてねーぜ。
そう言った灰崎くんの唇が楽しそうに弧を描く。
誰もいない薄暗い部室。外からはみんなが練習している音や声が聞こえるというのに。
わかってる、叫べば誰かが来てくれるって。でも、それだと喧嘩になっちゃうから。問題が起きれば、全中にも出られなくなってしまう。
「問題は起こせない…頭もいいみたいだなあ?」
ぐい、と顎を掴まれて、口の中に無理やり粉薬のような物を突っ込まれた。
あまりに突然で、けほけほとむせる。呼吸が出来ない。
「な、に…、」
「それはなあ、フェロモンを強制的に作り上げて外に放出する薬だ。あー、惚れ薬の強化盤みたいなモンって言やぁわかりやすいか。」
灰崎くんの言ってる言葉の意味がわからない。思わず顔を顰めると、灰崎くんはふっと笑ってあたしの頬に触れた。
「つまり、無意識に異性を誘惑するフェロモンが垂れ流しになるって事だ。わかんねぇか?もう効果は出てるぜ?」
そう言われた瞬間、グラリと視界が揺れて、その場に座り込んだ。
なにこれ、気持ち悪い。熱い。吐きそう。熱が出た時みたいな怠くて重い感覚。
「可愛いな…誘ってるようにしか見えねぇわ。このまま、二軍か三軍の部員共の群れの中に放り出してもいいんだぜ?」
そう言った灰崎くんを下から睨みつける。
「…まあ、そんな事すりゃー確実にマワされっけどな。」
何が面白いのか、クツクツ笑う灰崎くん。ああ、本当にこの人は最低だ。今すぐにでも蹴り上げてやりたいけれど、体格差的に敵わないのと、身体が怠いので動けない。
「…な、にが…望みなの…?」
「物分かりが良くて助かるぜ。このまま大人しくヤラせろ。そうすりゃーバスケ部員にも危害は加えねぇし、アイツらの前から消えてやらあ。」
その要求に、思わずぐっと言葉が詰まる。嫌だ。嫌だ。だけど。
わたし一人犠牲になるだけで、みんなを守れるなら…。
コクリ、と小さく頷くと、満足げに唇の端を上げた灰崎くんは、あたしのセーターを脱がせて、シャツのボタンを全部外した。
「はは…あの薬、やべェな。涙目のお前見ただけで、勃ち過ぎてイテェくらいだわ。」
手首を掴まれて、ぐっと灰崎くんの股間に押し付けられる。
硬い感触に、押し殺していた声が喉から少し漏れた。
「ピンクのレースか…乙女だねェ優姫ちゃん。」
胸元をジロジロと見つめた後、灰崎くんはあたしのスカートの中に手を忍び込ませた。
全身に鳥肌が立って思わず脚を閉じる。やだ。気持ち悪い。いやだ。誰か。
「おい、抵抗すんじゃねぇよ!」
その時、だった。
ガチャリ、と部室の扉が開いて、眩しいくらいの光が入った。
「優姫〜?スコアボード見つかっ…、」
揺れる桃色のポニーテール。
さつきだ。その姿を目にした途端、身体の力が抜けるのがわかった。
さつきは驚愕の表情から、一気に瞳を怯えの色に染めた。
「きゃあああああ!!!」
灰崎くんの舌打ちは、さつきの叫び声によって掻き消された。