KRK 's BSK
□唯灯
1ページ/1ページ
中学時代、紫原はわたしのことが好きだった、と思っていた。
だけどわたしは、誠凛高校に入って一年目の冬、それが間違いだった事に気づいた。
ウィンターカップで陽泉に勝利を収めた日、バスケへの執着心を垣間見せた彼の髪を結ぶヘアゴムには、卒業式の日に強請られてあげたわたしの帝光のブレザーのボタンが付いていたのだ。
過去形じゃなかった。
結局、最後までわたしに何も告げなかった紫原は、今に至るまで気持ちの欠片を捨てる事は出来なかったらしい。
「…ゆぴちん」
ウィンターカップで誠凛が優勝した夜。打ち上げが終わって、家に着いたのが22時過ぎで。
まさか、家の前で紫色の彼が待っているなんて思っていなかったわたしは、その場に呆然と立ち尽くした。
「え、待って、色々聞きたいことはあるんだけど…何時から?」
「んー…19時過ぎくらいかなー。秋田で慣れたと思ってたけど、やっぱ東京も普通にさみぃねー」
「何考えてんの!?」
慌てて自宅にその大きな体を押し込む。ソファーに座らせて、寝室から引っ張ってきた毛布を投げつけるように紫原に被せると、紫原は、アララ〜怒った?と彼独特の緩い口調で紡いで、首を傾げた。
「説明して!何でこの寒い中、わたしの家の前で3時間も待ってたの?」
「えー…説明ってゆーか、ウィンターカップ終わったし、オレ明日には秋田に帰るんだよねー。だから最後にちゃんと会っておこうかなーって思って、室ちんに家聞いたー」
どうせメールも電話も拒否られてんだから、会うには家の前で待つしかないしー、と紫原は毛布に包まったまま目元を少し伏せる。
いやタツヤは何サラッと人の家教えてんだ、と抗議のメールを送ろうとケータイを開くと、既にタツヤからsorryと一言だけのメールが来ていた。…次会ったら直接文句言ってやる。
「ねえってば。ゆぴちん聞いてる?」
「え、あ、ごめん聞いてなかった」
「オレの電話とメールの拒否外してほしいんだけどーって話ー」
「ああその話…」
「お誕生日おめでとうメールすら返ってきたしー。もう毎回エラー返ってくんの虚しいんだよねー」
「いや送んなきゃいいじゃん…」
「何で?ヤだよ。昨日はエラーでも今日は届くかもしんないじゃん。