BOOK6
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隣に並ぶ優姫。
この時間の駅のホームは、人が多い。
おれよりも白くて小さな手。
何だか優姫がどっかに行ってしまいそうな、消えてしまいそうな、そんな気がして。
そんな変な考えを打ち払うように、おれは咄嗟に優姫の手を握った。
冷え症の優姫の手は予想通り冷たい。
そこで、俯き気味だった優姫がふと、顔を上げておれを見た。
「いのちゃん。 。」
電車で掻き消された優姫の声。
優姫は言葉を紡ぎ終えると、その形のいい唇を閉じて、おれに微笑みかける。
そして、今度ははっきりと、
「ばいばい。」
「優姫っ、」
「うわっ!」
がばっ、と跳ね起きると、そこはベストの楽屋だった。
そうだ、今日は雑誌の撮影で…。
あれ、おれ寝ちゃってたんだ。
「ビックリさせんなよー心臓止まったかと思ったわ、マジで。」
「あ、悪ぃ。」
どうやらソファーで寝ているおれのすぐ隣でベースを弾いていたらしいひかるが、いきなり跳ね起きたおれに相当驚いたらしい。
「優姫の名前叫んで起きるとかどんな夢見てたんだよお前ー。」
「優姫ちゃん居たらめっちゃびっくりしてただろーね。」
「寝言ってレベルのボリュームじゃなかったぞー。」
けたけた笑うやぶ、たかき、大ちゃんに、おれは目を走らせてふと、一つ影が足りないのに気付く。
「…優姫は?」
「電話しにいった。兄貴だって。」
「あー…。」
変な夢を見たからか、一瞬マジで消えちゃったかと思って焦ったけど、流石にそんな事はないらしい。よかった。
「で、伊野尾、どんな夢見たんだよ。」
何故か楽しそうににやにやするやぶがおれにそう疑問を投げかける。
「…なーんかいい印象の夢じゃねーからあんま言いたくねーけど…。電車の音で聞こえなかったけど優姫が何か言って、そんで「ばいばい」って言われた。」