BOOK6

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好きだった。昔からずっと。
おれが声変わりする前から。
同期として入所して、出会って、それからおれの恋愛のベクトルは優姫にしか向いていない。

テキトーに童貞捨てて、性欲溜まったらその辺のバカっぽい女抱いて、そうしてこの世界で身も心も汚れていっても、優姫に対する想いはずっと純粋なままだった。



だけど、こんな汚れたおれには、もう優姫に気持ちを伝える資格すらない。いいんだ、片想いで。

だけど、優姫に彼氏とか出来んのはやだなあ。あーおれってほんとワガママ。




「こんな事なら、ぜーんぶキレイだった時に、好きって言ってりゃよかったな。」




ひっそりと誰に知られる事もなく、自室の机の上の写真立てに入ってある優姫とおれのちょっと前に撮影で撮ったツーショット写真をぼんやりと眺めてそう呟いた。



そして、不意にカレンダーに目を移して、おれはふと思いついた。

全てを捨てて、たった一日にかけてしまおうか。上手くいけば、人生で一番幸せな日になるかもしれない。


3日後に迫ったおれの誕生日。とんでもない考えなのはわかっているけど、それほどまでに行き場のない気持ちが限界を訴えていた。

おれは速攻優姫に電話をかけた。






《…は?なんて?》



「おれの誕生日の夜に、おれのこと抱いてほしいんだけどって言ってんの。」



《…なに、下ネタ?どしたの?頭おかしくなった?それとも酔ってる?》




電話越しに、優姫の引いたような声が聞こえるけど、ここで退いちゃ意味がない。




「ね、お願い。こんな事もう二度と頼まないし、今年も、来年も、この先ずっと誕生日祝ってくんなくていーから。」



《…逆にそこまでして何であたしに抱かれたいの?》




胸がちくりと痛む。
嘘吐くのも、ポーカーフェイスも得意だけど、こんな嘘は吐きたくなかったなあ。




「身近な人と、って何かすっげー背徳感で興奮しそーじゃん?経験してみたいんだよねー。」




そう言えば、優姫が電話の向こうで溜め息を吐くのが聞こえた。




《…わかった、いいよ。けどその代わり、いのちゃんを見る目は変わるけどね。ほんと最低だと思うよ、そういうの。》




ああ、これで全てを失った。けれど、それを代償に優姫の一日を手に入れた。




「…ありがと。」




人が聞いたら、たった一日のその瞬間の為にバカだって思うだろーし、優姫みたいに最低って罵るかもしれない。

けど、それ以上に、それほどまでにでっかい気持ちと葛藤があるってのは本当だよ。

いつか後悔するかもしんないけど、それでも、今は優姫にちょっとでも近付きたくていっぱいいっぱいだった。




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