BOOK6

□up
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「っ、優姫ちゃん、ダメだよ、こんなとこ…っ誰か、来ちゃう、」




追い詰められて、壁に背中をつけたまま、困ったように眉を下げる木くん。


追い詰めた本人のあたしは、そんな木くんににっこり微笑みかけてそっと木くんの頬に触れる。

びく、と肩を揺らした木くんは、あたしが指で頬を緩く撫でてあげるとすぐにふにゃりと恋情に融けた表情になった。

ああ、わかりやすい。




「もう二週間も二人になれてなくて、欲求不満なんでしょ?」



「…っ、」




図星だったらしく、ぐっ、と唇を噛む木くん。




「今日だって、木くんこの後映画の撮影でしょ?明日はあたしドラマの仕事だし。またこの先二週間は二人になれないよ?」




「で、も…こんな、シャワールームなんて、誰でも入ってこれちゃうし、」




シャワールームの一番奥の個室。この季節、あまりシャワールームを使う人はいないと言っても、いつ誰が入ってくるかはわからない。


今日はジャンプ全員での撮影で、休憩時間に木くんを呼んで二人で抜け出した。

久しぶりに二人になれた事に木くんはヘラヘラ喜んでいたけれど。

ここに連れ込んだ時点で、木くんは何をされるのか察したらしく、やだ、と拒否していた。それを無理やり個室に押し込んで、今に至る。




「もし誰か入ってきたとしても、声さえ出さなければバレないよ。」



「…そんなの、無理だよ…。」



「じゃああと二週間、もう二人になるチャンスなくても耐えられるの?」




こうして二人で過ごせるのも、あと一時間だけだよ。


そう言うと、木くんは悲しそうにへにゃりと眉を八の字にして、唇を震わせてあたしの服の裾を握った。




「……やだ、…優姫ちゃん…、」




低くて掠れた声でそう呟いて、木くんは俯く。




「……寂しい事言わないでよ…。」




ほんとに見た目と中身のギャップが激しいな、と改めて思う。

今演じてる役柄のせいもあって、普段よりチャラく見える風貌をしている癖に、こうして弱々しく遠慮がちに甘えたがるから。




「仕方ないでしょ?お仕事なんだから。」



「…わかってる、けど…。」




そう言って、木くんはあたしの髪を指で掬って、揺れる瞳であたしを見つめた。




「……時間なんか、止まっちゃえばいいのに…。」




そんな子どもみたいな事を呟いて、木くんはぎゅ、とあたしの肩に顔を埋めた。




「……優姫ちゃんの、ベッドがいい…ベッドがいいよ…」




弱々しくそう呟く木くんの身体の向きを反転させて、壁に手をつかせる。

チャリ、と木くんのネックレスが音を立てて。

木くんは何も言わず項垂れたまま、抵抗しなかった。




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