花明かりと雨
□序章
1ページ/1ページ
「郁織、実琴、千晃、優姫。こっちに来なさい」
お父さんの凛とした声がする。
「郁織、誠実なお前には安心しているよ。聡明さと思慮深さを忘れないように。弟と妹を頼んだよ」
ぽかんとしているイオ兄の手に、青色の石がついたピアスが乗せられる。これは…サファイアか?とイオ兄の声が響く。
「実琴、お前は人当たりも良く魅力はあるが、自惚れず、知恵と忍耐力も身に着けなさい」
何だよそれー、なんて少し不貞腐れたミコ兄の手には、緑色の石のピアスが乗せられる。どうやらエメラルド、らしい。
「千晃、自分の信念を曲げず、感情豊かに、太陽のように明るく生きなさい」
暗くて悪かったな、と眉を顰めるチア兄の手には、オレンジ色の石の…シトリンというらしい、ピアスが渡った。
「優姫、素直で強く、それでいて、仲間を大切にするんだよ。たくさんの愛と幸福に恵まれるように」
わたしを見て、愛おしそうに目を細めたお父さんは、そっとわたしの手にピンクがかった赤色の石のピアスを握らせた。この石は知っている。お母さんのネックレスにも付いている、ルビーだ。
「明日から、お前達は日本で4人だけでの生活を始める。側で成長を見られないのは悔しいが、このピアスがお前達を守り、導いてくれる事を願っているよ」
ああ、これは夢だ。
アメリカを発つ前日の夢。
「父さんありがとう。でも、オレたちピアスホールなんて開いてないんだけど」
「わかってるわよ。だから、今から開けるのよ」
イオ兄の困惑したような言葉に、にこり、と微笑んだお母さんがそう答えて、ピアッサーを掲げて見せた。
「うわあああ!!」
そうだ、それから、最後の家族団欒の日は、先端恐怖症のチア兄の叫び声が響いたんだっけ。
ぱち、と目が覚める。
あれから、もう1年弱が経とうとしていて、いつの間にか中学1年生の秋が訪れようとしていた。
「お父さんとお母さん、タツヤにタイガも、元気かな」
ぽつり、そう呟いて、枕元のサイドテーブルに手を伸ばして、ルビーのピアスを耳に留める。
それから、アメリカにいる兄弟分とお揃いのシルバーリングのネックレスを首に通し、わたしは今日も朝食を作るため、部屋を出るのだった。
.