花明かりと雨

□序章
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「郁織、実琴、千晃、優姫。こっちに来なさい」




お父さんの凛とした声がする。




「郁織、誠実なお前には安心しているよ。聡明さと思慮深さを忘れないように。弟と妹を頼んだよ」



ぽかんとしているイオ兄の手に、青色の石がついたピアスが乗せられる。これは…サファイアか?とイオ兄の声が響く。




「実琴、お前は人当たりも良く魅力はあるが、自惚れず、知恵と忍耐力も身に着けなさい」



何だよそれー、なんて少し不貞腐れたミコ兄の手には、緑色の石のピアスが乗せられる。どうやらエメラルド、らしい。




「千晃、自分の信念を曲げず、感情豊かに、太陽のように明るく生きなさい」



暗くて悪かったな、と眉を顰めるチア兄の手には、オレンジ色の石の…シトリンというらしい、ピアスが渡った。




「優姫、素直で強く、それでいて、仲間を大切にするんだよ。たくさんの愛と幸福に恵まれるように」




わたしを見て、愛おしそうに目を細めたお父さんは、そっとわたしの手にピンクがかった赤色の石のピアスを握らせた。この石は知っている。お母さんのネックレスにも付いている、ルビーだ。




「明日から、お前達は日本で4人だけでの生活を始める。側で成長を見られないのは悔しいが、このピアスがお前達を守り、導いてくれる事を願っているよ」




ああ、これは夢だ。
アメリカを発つ前日の夢。



「父さんありがとう。でも、オレたちピアスホールなんて開いてないんだけど」



「わかってるわよ。だから、今から開けるのよ」




イオ兄の困惑したような言葉に、にこり、と微笑んだお母さんがそう答えて、ピアッサーを掲げて見せた。




「うわあああ!!」




そうだ、それから、最後の家族団欒の日は、先端恐怖症のチア兄の叫び声が響いたんだっけ。




ぱち、と目が覚める。
あれから、もう1年弱が経とうとしていて、いつの間にか中学1年生の秋が訪れようとしていた。




「お父さんとお母さん、タツヤにタイガも、元気かな」




ぽつり、そう呟いて、枕元のサイドテーブルに手を伸ばして、ルビーのピアスを耳に留める。

それから、アメリカにいる兄弟分とお揃いのシルバーリングのネックレスを首に通し、わたしは今日も朝食を作るため、部屋を出るのだった。




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