KRK 's BSK
□繚乱
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「オレと優姫っちが初めて話した時、こんな風に言ってくれる、見てくれる女の子がいるんだなって、オレ嬉しくなっちゃって、」
体育館の外の壁に凭れて笑う黄瀬くんを見上げる。
「そっから、ドキドキとワクワクが絶えないんスよ。会いたくてじっとしてらんないんス。」
だから、付き合って?
そう繰り返す黄瀬くんは、どうやら恋愛面でも強敵らしく。
「…じゃあ、あたしへの想いがどれくらい本気なのか試していい?あたしの提案を飲んでくれたら、本気だって認めてあげる。」
初めて返した拒絶以外の言葉に、黄瀬くんの表情がぱあっと明るくなる。わかりやすいなあ。
「もちろんっス!」
「抱かせてくれる?黄瀬くんの事。」
「……え?」
予想だにしていなかった言葉だったらしい。黄瀬くんはぽかんと口を開けたまま固まった。当たり前か。
きっと育った環境から、彼はプライドが高いはず。
そんな人間が、女に抱かれるなんて許すはずがない。つまり、この提案を飲めない黄瀬くんはあたしの事を諦める。
我ながらいい方法だと思ったんだけど。
あたしの予想に反して、何かを振り切ったように真面目な表情になった黄瀬くんは、首を縦に振った。
「…いいっスよ。それで、オレの本気が伝わるなら。」
嘘偽りなくあたしを映し出す瞳に、少しどきりとした。バスケをする時と同じ瞳をしていたから。
「意味わかってる?黄瀬くんが、じゃないよ?あたしが黄瀬くんを、抱くんだよ?」
「…女の子に、なんて経験ないっスから、ちょっと緊張するっスけど、優姫っちになら本望っスよ。本気で、好きだから。」
目の前の男の子の瞳に宿る覚悟に、あたしは一つ溜め息を吐いて一度体育館の中に引き返した。
そして、パイプ椅子に座るリコさんに声をかけた。
「リコさん、ちょっと早上がりさせていただいてもいいですか?飲み物やタオルはもう準備出来てるんで…。」
「うん、どうせもう終盤だしいいわよ。黄瀬くん?」
「はい…どうも本気らしくて、ちょっともう放って置けないです。」
そう言って苦笑すると、リコさんはにんまりと笑って、青春ねー。なんて。
どこがですか…。
鞄を持って、体育館から外に出る。少し不安そうにあたしを待っている黄瀬くんの耳にぺたりと伏せた犬の耳が見えた気がして、思わず噴き出した。
その声でやっとあたしが戻ってきた事に気付いたらしい黄瀬くんは、慌ててキリッと表情を作る。遅いってば。
「早上がりさせてもらったから、あたしの家行こっか。今日誰も帰って来ないし。」
そう声をかけると、黄瀬くんは緊張したように顔を強張らせたけれど、流石モデル。すぐに笑って頷いた。
「優姫っちと、こうやって二人で並んで歩くの初めてっスね。」
「そうだっけ。そう言えばそうかも。」
「制服デートっぽくて嬉しいっス!黒子っちはいいなあ、オレも誠凛行けばよかったかなあ…。」
そうしたら、毎日優姫っちとこうして一緒に帰ったり、どっか寄ってご飯食べたり、仲間とか友達っぽい事出来たんスよね。
そう言ってへらりと笑った黄瀬くんはどこか寂しげで。
そこで気付いた。
二人で並んで歩くのも初めてで、そもそもあたし達、友達とすら呼べないような曖昧な関係だった。
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