OTHER

□TENNIS(リョーガ受)
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『raindrop』

「あ〜ぁ、降りだした〜。これで部活はナシかにゃ…」
「うん、この降りじゃぁ…さすがに無理だろうね」
 テニス部が二人在籍する、三年六組の教室に呟かれた言葉……
 それは、終業のチャイムに掻き消された。


   * * *


「越前はいるか」
 教室の後ろのドアから端正な顔を覗かせる男に、越前…リョーガはこっそりと溜め息を吐いた。
 椅子を引き、中身の軽い鞄を肩に掛けて、リョーガは男に歩み寄る。
 気配だけで背を向ける男と、視線を合わせる訳でもない。
 言葉を交す訳でもない。
 黙って追って行くだけ。





「入れ」
 行き着いた先は生徒会室―――とは名ばかりの、男が好き勝手に使っている一室だ。
 内側から鍵が掛けられる音を背に、リョーガは上着とシャツを脱ぎ捨てる。
 伸びてきた男の手が胸元を弄るのをそのままに、下肢のものも取り払い……
「っ…待てって!」
 いきなり狭い裡に潜り込んでこようとする雄に身を捩る。
「お前が言い出した結果だ」
「わかってるから、少しだけ待て…いきなりじゃ壊れるっつーの」
 なんとか男の腕から逃れたリョーガは、最近常備するようになったローションのボトルを鞄から探り出した。中身を掌に垂らし、熱に馴染ませる。
 部屋の奥に置かれた重厚な机に身を寄りかからせ、自ら男の眼前に恥部を晒すように脚を大きく開く。
「…っ、ん…」
 堅く口を噤んだ入り口を解し、自然には濡れない内部に潤いを塗り込めて、リョーガは目の前の男を受け入れる準備をしていった。


   * * *


 桜吹雪の船から海の彼方を目指したリョーガは、結局跡部財閥の捜索艇に見つかり、越前家に連れ戻された。
 新学期が始まると、義弟・リョーマの通う青春学園に放り込まれ、船上で会ったテニス部のメンバーと再会した。
 時期的な事から見て入部まではしなかったが、帰り際にコートを覗いて人数合わせに呼び止められたり、試合を臨まれた時だけラケットを握って……
 つかず離れずの関係が続いていたある日―――雨が降った。





 1メートル先も見えない程の大雨に、もちろん部活は休み。
 さっさと帰ろうとしたリョーガは、廊下から見えた光景に眉を潜め、校門ではなくテニスコートへと足を向けた。
『凄ぇ殺気だな。雨でテニスができないのが、そんなに悔しいか?』
『……』
 そして…土砂降りの中、ひたすら壁打ちを続ける男を見付けて声を掛けたのが始まりになった。
『まだアンタとは戦ってねぇから、こんなところで壊れてもらったら困るんだよなぁ』
 秋に変わり行く季節の冷たい雨に打たれながら無茶をさせられる男の肩―――
 義弟から、男が肩を痛めていた事を聞いていた。その完璧ではない状態で負かされた事があると―――悔しそうに…愉しそうに……話していた義弟の顔を見て、興味を強くしたのは記憶に新しい。
 だから、べつに青学テニス部を思って、男に壊れられたら困るとか偽善ぶった気はない。
 ただ本当に、一度も対戦した事のない強い男に勝手に消えられるのはしゃくにさわる……そう、思っただけだ。
 自分が楽しむまでは―――
 そう思ったから……
『…このまま帰ったところで眠れん。お前がこの鬱屈とした気分を晴らしてくれるのか?』
『…良いぜ』
 方法も確かめないまま、リョーガは頷いた。


   * * *


「っ…まさか、こんな…解消され、…とは……っく…ぉもわなか……ァアッ……!」
 解した場所に捩じ込まれた雄が暴れ回る。
 熟れた媚肉を抉られ、内臓ごと引き出すかのように乱暴に掻き回されると、リョーガの言葉は無理矢理途切れさせられた。
「ひ、ァ…っっ、く……んン…ッ!」
「俺は、お前が…初めて、だった事に…っ、…驚いたがな…」
 背後に被さる男の、荒い息が耳にかかる。
 リョーガは机にしがみつき、崩れそうになる膝を必死に踏み止まらせた。
 喘ぐ隙もない。激しい律動に翻弄されるだけだ。
 体内で男の白濁がグチャグチャと淫猥な音を立てるのがやけに耳に響くような気がした。
「もっと、締めろ…っ…」
「っ痛、ぇ…!」
 突然尻たぶを叩かれて思わず仰け反る。
 咄嗟に後孔を絞れば男は息を詰め、中に埋め込んだ肉を膨らませた。
「っ、そうだ…それでいい…」
 遠慮なしに打たれた肌は熱く、次第にヒリヒリと…ジンジンと…疼き出す。
「…っく、ふ……ぅっ…!」
 リョーガは机に押し付けられて苦しんでいる自身に手を伸ばした。
 自分の苛立ちを解消する為だけにリョーガを使う男は、自身の快楽だけを追っていく。だから、リョーガの体は放っておかれ、裡からだけの煽りに悶々と熱を昴ぶらせているのだ。
「ふ、ぅ……っ、んン…ァ……!」
「……っ、く―――」
「ぁ…ぁ、ァア―――ッ!」
 リョーガは限界まで我慢させられた自身を握り締め、男が何度目かの欲望を吐き出すタイミングに合わせて欲情を吐き出した。





「っ……」
 ズルリ…と漢の抜け出る感覚に唇を噛み締める。
 リョーガを気遣うつもりなど毛頭ない男がスキンなど使う筈もなく、塞ぐモノのなくなった後孔からは奥に吐き出された白濁の欲望が溢れ、脚を伝っていく。
「さっさとしろ」
「……」
 リョーガは怠い体を起こし、タオルを引っ張り出して入り口を拭う。
 浅い場所に溜る白濁の粘液を掻き出し、奥に残る気色悪さに目を瞑って服を整えていく。
 さっさと自分の身繕いを済ませた男が、リョーガに手を貸す事はない。
 緩慢な動作しかできないリョーガを苛立ったように見下ろしながら、壁にかかった時計と部屋の入り口を気にしていて……
 もう校内に残っている生徒はいないだろう。いるのはきっと守衛や一部の教師だけ……
 優等生の皮を被った男は雨が降る度に居残っているのに、彼等に不審に思われる事なく見送られる。足腰に力が入らなくてフラつくリョーガに、その時ばかりは肩を貸してくれる事もあるから、リョーガもおまけのように彼等の不審の目を擦り抜けてきていた。

 あの雨の日、男を見掛けなかったなら……

 居残る事に不審に思われ、咎められる事があったなら……

 校内に、密室が確保できない状態だったなら……

(今の関係はなかったんだろうな…)
 重なり過ぎた条件にひっそりと自嘲したリョーガは、先を行く男の背中を追って歩き出した。


   * * *


 雨のベールに隠された時にだけ見せられる、男の激情……
 部員の注目を一身に集める男を独り占めするひととき……
 いつしか、それを手放したくなくてがんじがらめになっている自分がいる。
 退屈な授業をそっちのけで机に突っ伏していたリョーガは、ふと顔を上げ、開け放してあった窓に区切られた空を仰いだ。
 冷たさを孕んだ風が…また雨の匂いを運んでくる。
(…っ…今日も…アイツと……?)
 寒気とは別にゾクリ…と躯の奥を疼かせたリョーガはひっそりと唇を歪めて、自分の身を抱き締めた。
(…手塚―――)

Fin.
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