OTHER
□TENNIS(リョーガ受)
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『トラップ☆』
「風呂、空いたよ」
「チビスケ。何だよ、お兄様の背中を流そうとか思わなかった訳?」
「バカな事言ってないで、さっさと入って来れば?」
そっけないリョーマに肩を竦めたリョーガは、開いていた雑誌を脇に放り出して寝転がっていたベッドから起き上がった。
「可愛気なくなったよなぁ…昔はあんなについて回ってたのに…」
シャンプーに頭を泡立たせながら、リョーガはぶつぶつと独り言ちる。
ちょっと揶揄えば反撃してきていたオモチャは、今では冷めた態度で切り捨ててくれるのみ。
世間ではクールと言われ、一部の女子にはモテるのだろうが、リョーガにしたら面白くない。
「お兄ちゃんは悲しいぞ…」
一人で嘆くのも虚しくなって、特大の溜め息を吐いたリョーガは、止めてしまっていた手を緩慢に動かす。
カラ…
「ん?」
引き戸が動く気配と流れ込んでくる乾いた空気に、リョーガは顔を上げた。途端―――
「痛っ…」
垂れてきたシャンプーが目に沁みて、相手の正体がわからない。
「チビスケか?お兄様の背中を流す気になったか」
あたりをつけて声を掛けるが返答はなく、リョーガは首を傾げた。
シャワーを手繰り寄せようとしたリョーガは、脚に擦り寄せられた感触に体を硬くした。
ふわふわしたもの。
「てめっ…カルピンか!」
「ほあら」
答えるように声が上がる。
肉球の濡れた前足がリョーガの脚にかけられ、腹の辺りを毛先に擽られる。
「やめろ、こら…」
「ほあら〜」
押しのけようとして手探りで頭に手を乗せると、邪魔だと言わんばかりに猫パンチで叩き落された。
爪は出されていなかったし、全然痛くはないのだが、精神的には猫に諌められたというショックは大きい。
「何だってんだよ…猫って風呂好きだったかぁ?」
「ほあら…」
「っ―――」
ホールドアップしてカルピンの好きにさせていたリョーガは、胸の突起をザリ…と舐め上げられて息を詰めた。
ざわり…と背筋を何かが走り抜け、寒くはないのに肌が粟立つ。
「ちょ…!」
身を捩ると軽く爪を出されて脚が痛い。
カルピンのザラついた舌は、敏感な突起にかなり強い刺激を与えてくる。
眼を閉じている所為か感覚が鋭くなっていて、突起が尖って嬲られているのが手に取るようにわかってしまう。
「ぅ…くっ…」
リョーガは眉を顰め、軽く仰け反った。
何が面白いのか、カルピンはますます執拗に突起を転がし、伸びあがってくる。
時折りぴくぴくと震える髭が、ちくちくと肌に刺さって痛痒い。
「んっ…勘弁、してくれよ…」
躯の奥から、疼くような熱が沸き起こってくる事に焦りを覚える。
引っ掻き傷の一つや二つは覚悟してシャワーで撃退するしかないかと考えた時、一心に舐めていたカルピンの動きが止まった。
「ほあら」
スッ…と舌が引いていくのにホッとしたのも束の間。
今度は下肢に刺激が襲ってくる。
項垂れたモノをジョリジョリと呼び起されて、力を持ってくると持ち上げるように下から舐め上げられる。
「ゃっ…め…!」
先端を遠慮なしに舐められると、ズキズキと痛みが走った。
けれどそれは決して痛みだけとは言えない感覚で……
痛みに滲んだ涙にシャンプーが洗い流され、ぼんやりとだが視界が戻ってくる。
脚の間で蠢く、白い毛玉。
リョーガは押し退けようとするが、カルピンは頑として動いてくれない。
急所を人質に取られた状態ではあまり強引な事もできず、切羽詰まったリョーガは懇願した。
「マジ…やべぇから…っ…」
だが、それに対してのカルピンの行動は……
ふみ…
「ぅ、ぁあっ……!」
しこった嚢を踏みつけられたリョーガは一線を越えてしまった。
暫らく抜いていなかった欲望が、カルピンの澄ました顔に降り掛かる。
「…………最っ低ぇ…」
荒い息を吐きながら、リョーガはがっくりと肩を落として落ち込んだ。
猫に達かされた自分の体が恨めしい。
「…ほあら」
情けない声が足元で上がる。
自分でやっておきながら驚いたように顔を洗っているカルピンを、リョーガは呆然と眺めていたが一向に終わる気配がない。
「何やってんだよ…」
溜め息を吐いて仕方なしに手伝ってやる。
手で大雑把に拭い取り、逃げる毛玉を押さえつけてシャワーを浴びせた。
ついでに自分も全身の泡を洗い流したリョーガは、湯船に浸かる事なく脱衣所に飛び出して行く。
腰にタオルを巻いただけの状態でカルピンにドライヤーを当てて乾かしてやるのは、風邪を引かせたらいけないと思ったからだ。
「よし」
「ほあら…」
ふかふかに戻ったカルピンを眼の高さまで抱き上げたリョーガは、毛だらけの口に自分の唇を押しつける。
「さっきの事は内緒だぞ?」
「ほあら〜」
「男と男の約束だ」
「ほあら〜」
わかったのか、わからないのか…どっちにしろ、言葉を喋られる訳ではないのだが、つい念を押してしまうリョーガである。
とん…と飛び降りたカルピンは、スタスタと出て行ってしまった。
「やれやれ…そんなに溜まってたのか?オレって奴は…」
猫の悪戯に感じてしまったのは自分の体であって、カルピンが悪い訳ではない―――そう、考えるリョーガはかなりお人好しかもしれない。
「カルピン、どうだった?」
「ほあら〜」
廊下の端で待っていたリョーマに抱き上げられたカルピンは、頭を擦り寄せた。
「リョーガの体、綺麗だっただろ?」
「ほあら〜」
「いっぱい感じさせてあげられた?」
「ほあら〜」
「良いな、お前は…」
リョーマは愁いたように溜め息を吐いて見せる。
「リョーガの奴…人の気も知らないで風呂に誘ったりして…好きな奴の裸見て抑えられる自信ないって…」
「ほあら〜」
慰めるように頬を舐められたリョーマは、悪戯を思いついたように愉し気な笑みを浮かべた。
「そっか、襲っちゃえば良いのか。誘うって事は、少しは脈があるのかも」
「ほあら〜」
「うん、次に誘われた時は頑張るよ、カルピン♪Thank you☆」
そう、カルピン乱入はリョーマの差し金だったのだ。
決意したリョーマ……
何も知らないリョーガ……
この二人の未来は?
Fin.