OTHER

□TENNIS(リョーガ受)
7ページ/10ページ

『共犯者』

 日本の越前家で暮らし始めて一週間―――。
 それは、『家』に固執しない、流れ者性分のリョーガが慣れるには充分な期間だった。
 与えられた部屋で、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいると、すぐ脇にある窓ガラスに何かがコツコツと当たる音がする。
「何だ?」
 開けて見れば、咥え煙草でだらしなく着流しを着込んだ南次郎の姿があった。
「よぉ…ダラけてるくれぇなら、降りて来てテニスしねぇか?青少年」





 ジャージに着替えて、家の裏にある寺に連れて来られたリョーガは、呆れ顔で南次郎を振り返った。
「向こうの庭にもコート作ってたけど、こんな所にもコート作っちまったんだな。南次郎さん―――痛…!」
「お父様、だ」
 テニスボールをぶつけられたリョーガは、ポリポリと頬を指で掻く。
 アメリカにいた時も、父親と呼ばなければどつかれたのを思い出したのだ。

 だが―――

 お父様と呼ぶのは論外。
 桜吹雪を呼んでいた時のように、オッサンと呼んだらボールをぶつけられるだけでは済まないだろう。
 しかし…お父さん、父さんというありきたりな呼び方も、自分のキャラではないのだ。
 まだ、抵抗なく呼べるとしたら……
「…親父」
「何だとぅ〜?」
 南次郎の眉が跳ね上がる。
「…チビスケもそう呼んでたし」
「かぁ〜、どいつもこいつも可愛い気がねぇ!」
「そんなもんオレたちに求めんなよ」
 南次郎の嘆きを、リョーガはスッパリと叩き落とす。
「その捻曲がった性格、叩き直してやるぜ」
「いや、これきっと南じ…親父譲りだし」
「うるせぇいっ。ほれ、サーブはお前からだ」
 顎をしゃくられて、リョーガは足元に転がっていたボールを拾い上げた。


   * * *


 様子見されていた最初の内は、まだ互角に渡り合えた。
 だが、ほんの少し…南次郎が本気を出した瞬間―――リョーガのテニスはできなくされていた。
「どうした、青少年。もう終わりか〜?」
 膝に手をついて汗だくになっているリョーガを、南次郎はニヤニヤと見下ろしてくる。
 平然としている南次郎が憎らしい程に、リョーガは疲れきっていた。
「オレ…かなり強くなったつもりなんだけど…?」
「ん〜?まだまだだな」
「あっそ…」
 リョーガは薄っすらと苦笑を洩らす。
 世界の裏側を見たりして少しは成長したつもりだったのだが、南次郎からしたらちっぽけなままらしい。
「なぁ」
「はいはい?」
 投げ遣りに返事をして、大の字に寝転がる。
「何で家を出た?女でも見つけたか?」
 真上から、南次郎が覗き込んでくる。
 ふざけているように見せかけて、その瞳はかなり真剣だ。
(違ぇよ…)
 その強さを受け止められなくて、リョーガはそっと眼を閉じた。
「…別に。衝動に駈られたってやつ?ほら、でっけぇ夢見つけたくてよ」
 ―――嘘だ。
 本当は南次郎の側にいる事が辛くなったから…。
 リョーガという名前をつけて、『息子』として迎え入れてくれた人に、抱いてはいけない感情を抱いてしまった。
 この気持に名前をつけてはいけない。
 言葉にしてはいけない。
 そう…思ったから家を飛び出し、今は口を噤む。
 小さな舌打ちが聞こえた。
「ガキのくせに、こんな時まで強がってんじゃねぇよ」
「―――ぇ…」
 吐息が触れて、唇に熱が触れる。
 驚いて眼を開ければ、腕を掴まれ、引き起こされた。
「ただのガキを引き取る訳ねぇだろ。俺がそんなに善人に見えるか?」
 ぶっきらぼうな言葉と共に、きつく抱き締められる。
「お前の気持ちだってわかってた。待つつもりだったんだぞ、俺は」
「…なん…で…」
「あの時、お前はまだ七歳のクソガキで、分別つかねぇだろ。もしかしたら親愛の情と勘違いしてるかもしれねぇ」
「オレ、ちゃんと好きだった…」
「わかってたって言ってんだろ」
 上げようとする顔は、煙草臭い胸元に押し付けられて上げられない。
「お前が分別つくって言われる歳になって、それでも気持ちが変わってなかったら…勘違いじゃねぇって言うなら、遠慮する気なんか微塵も持ち併せちゃいなかった」
 心が、熱くなる。
 リョーガは自ら顔を押し付けて、口を開いた。
「オレさ…やっぱり南次郎さんって呼びてぇ…」
 八年前の気持ちは少しも熱を冷ましていない。
 むしろ、南次郎の言葉に酸素を吹き込まれた火は、大きく燃え上がっていた。
「素直に欲しがりやがれ、クソガキ」
「ガキじゃねぇって…自分の気持ちにくらい、責任持てる歳になったぜ」
 胸に手をつくと、今度はすんなりと顔を上げられる。
「アンタこそ、さっきからオレにばかり言わせようとしてねぇ?」
「ほぅ…俺に求めさせていいのか。冒険者だな、リョーガ」
「ぇ…」
 名前を呼ばれて、躯の奥が痺れるように疼いた。
「―――っん…ぅ……!」
 さっきの触れるだけのキスなど、比べ物にもならない。
 喰い尽されるような、深い口付け…。
 歯がぶつかり、痛い程に舌を吸い上げられる。
 口腔を余すところなく嬲られ、喉の奥まで蹂躙される。
「…っ、るし…ぃ…南次郎さ…」
「八年分だぜ…全然足りねぇよ…」
 吐息まで奪われて苦しさに喘ぐが、聞き入れてもらえない。
 囁く間も惜しむように唇は塞ぎ直される。
 唾液を流し込まれ、飲み下させられた。
 ジャージの裾から手が潜り込んできて肌を弄り始める。
 節張った手は荒々しく這い回り、リョーガの躯を暴いていく。
「ぅぅ…っ、ン…!」
 与えられるものが多過ぎて、リョーガは自分を保っていられなくなる。
「んっ…ぅ……ふ、ぁ…南次郎さん…」
 縋りつくと、南次郎は笑って唇を解いた。
「まだまだだな」
「…るせ…ぇ、よ…」
「こんぐれぇで音を上げんなら、残りは止めとくか?」
「やだ…!」
 咄嗟に声を上げて、ダダをこねる子供のようだと恥ずかしくなる。
 更に、南次郎に頭を軽く叩かれて、それが子供扱いのようでリョーガはむくれた。
「ここじゃなんだからな、向こう行くか」
 南次郎が視線を向けた庵室は家程しっかりした造りではないが、寝転がっても背中が痛くなくて、周囲から覗き込まれる心配のない壁があれば充分だ。
 リョーガは小さく、頷いた。





 室内に入るとすぐに衣類を剥がれ、畳の上に押し倒される。
 余裕のない様子で胸元に顔を埋めてくる南次郎の背中に、リョーガはゆっくりと腕を回して唇を弛めた。
「何笑ってんだ」
「…ここで昼寝とかしてんだろ。畳からアンタのにおいがする。まるで包まれているみてぇだぜ」
「ふん…可愛い事言うじゃねぇか。けど…」
「っ、あ…!」
 無防備だった中心に触れられて声を上げたリョーガは、慌てて脚を閉じようとするが間に南次郎がいては叶わない。
「集中しろ」
「んっ…ぁ…」
 唇に小さな突起を食まれ、大きな手に握り込まれたモノを扱き上げられると、リョーガは洩れる声を抑えられなくなった。
 南次郎の思うままに翻弄されるリョーガの躯は、あっという間に昂ぶり、快楽に染められていく。
 粒を尖らせ、震える果実からは先走りの蜜を零し、感じるままに淫猥に躯をくねらせて男の目を楽しませる事に羞恥を覚える理性も残されない。
「ぁ…っ、ふ…南次郎さ…ゃ…アンタも…っ…」
 それでも、自分だけが乱されるのは本意でないリョーガは、力の入らない腰を緩慢に動かして南次郎に擦り寄せた。


 知識としては知っている、男同士のSEX。
 恐怖がないと言えば嘘になるが、届かないと思っていた男に抱かれる幸福を思えば瑣末な事でしかない。


「ちゃんと…抱いてくれよ…」
「ったく、色気出しやがって…もう、後戻りはできねぇぞ…」
「…ンっ…必要ねぇ、って…」
 吐息に擽られて肌が粟立つ。だが、それは決して嫌な感覚ではなかった。
 指に唾液を絡めた南次郎は、リョーガの脚の間…その奥に手を進めてくる。
 潜んだの窄まりに触れられて思わず体を固くすると、宥めるように唇を塞がれる。
「ふっ…ぅ……」
 濡れた指はリョーガを傷つける事なく潜り込んで来たが、物凄い異物感を伴いながら裡を擦り上げる。
「痛いか?」
 リョーガは眉を寄せながらも首を横に振った。
「…へぃ…き…」
 気持ち悪いが痛くはない。
 一度引き抜かれて二本に増やされても、圧迫感はあったが痛みはなかった。
「…っ…まだ…かよ…」
「もう一本挿れても大丈夫になったらな」
「げぇ…ンな、しなきゃ…なんね…の…?」
 裡で蟲く感覚には既に気が遠くなっているというのに……
「さっさと、挿れて…くんね…?…オレ、疲れちまぅ…ぜ…」
「お前を傷付ける訳にいかねぇだろ。それに…」
 今までの馴染ませるような動きと違って、何かを探すように小刻みに動く指に意識を奪われる。
「…ぅ…や…っ…」
「少し我慢しろ」
「けど…っ…ぅ、ぁあっ…!」
 突然体を走り抜けた衝撃に、リョーガの腰は跳ね上がった。
「見つけたぜ…」
「くっ…ぁ…ぁっ…ん…」
 熱が溢れ出す。
 そこを軽く押されるだけで、目の前がチカチカとし、頭の中が真っ白になる。
「気持ち良いだろ…?」
 囁かれて、躯を駆け巡っている衝撃が快感だという事に気が付く。
 襲ってくる奔流にただ怯えていたリョーガは、正体を知って身を委ねて良いのだと安心した。
 力を抜き、自ら腰を振って、感じるところに指を導いていく。
「ぅ、ぁ…く…っん…は…ぁっ」
 不意に指を引き抜かれ、リョーガは不満の声を洩らした。
 南次郎を見上げると、苦笑を向けられる。
「悪いな、リョーガ…それ程余裕はねぇんだ…」
 腕を引き剥がされて腿を掴まれ、腰が浮く程に体を曲げさせられる。
「な、に……や、ぁ…っ!」
 蕾に触れる、軟らかくぬめった感触……
 南次郎に舐められているのだと知って、リョーガは暴れた。
「汚ね…って、ば…やめ…っ!」
 ピチャピチャと響く音に、どれだけ濡らされているのかが知りたくもないのに知れてしまう。
 耳を塞いでも、体の中から聞こえるような錯覚を覚えて、意味がなかった。
「ぁっ…南次ろ…さ…っ…」
 南次郎の舌は入り口を濡らすだけでなく、中に潜り込んで直接唾液を送り込んでくる。
 指よりも軟らかく、弾力のある舌は、リョーガがどんなに後孔を締め付けても深い場所まで入り込んでしまう。
 腰を高く上げられている所為で、自分の秘所に南次郎が舌を伸ばしているのをまざまざと見せつけられてしまい、リョーガは羞恥に気が狂いそうになる。
 やっと顔を上げたかと思うと、指を三本に増やしての拡張で……
 南次郎が自分のモノをリョーガの蕾に押し付けてきた時には、疲労困憊してぐったりと体を投げ出していた。
 ぐっ…と腰が押し付けられ、狭い入り口を太い楔が抉じ開ける。
「…ん、ぁあっ…ぅ…くっ…!」
 身体が引き裂かれるような感覚に、リョーガは畳に爪を立てて仰け反った。
 痛いというより…熱い。
 ズルリ…と、一番太いカリの部分が潜り抜けると、後は一気に奥まで突き込まれた。
「…っつ、ぅ……」
 限界まで開かされた蕾はズキズキと疼き、引き攣ったように戦慄いて咥えているモノを締め付ける。
 それでも、脱力しきっていた躯は長い時間をかけられて丹念に解された事もあり、怒張を比較的楽に呑み込んでいた。
「はっ…は…ぁ…っ…」
「…大丈夫か?」
「ぁ、あっ…」
 裡でビクビクと震える漢を愛しく感じて、薄く開いた唇から上擦った声が零れてしまう。
 同じ男として、南次郎が限界に近い事を感じ取ったリョーガは、意識して体から力を抜いた。
「まだ動かねぇから、安心しな」
 囁く吐息も熱く、強がる南次郎の言葉を裏切っている。
「…っ…ふ…ぅ…余裕…ぶっこいてんじゃ、ねぇよ…っく…」
「リョーガ…」
 声を出すと腹部に力が入って、体内の男を克明に感じた。
「…良いんだぜ…アンタの…好きに、動いて―――っぁあ…!」
 言い終わらない内に、激しい律動に攫われる。
 硬い肉棒が媚肉を掻き分け、最奥を目指して暴れ回る。
 指で暴かれた泣き所を切っ先で抉られると、躰の中から溶かされてしまいそうだ。
 頭の芯まで痺れさせ、体中を満たしていくのは、大人の余裕を取り払った南次郎の、剥き出しの想い。
「…好きだぜ、リョーガ…っ…」
「ん、ぁ…っ…オレも…ぁっ…あ…南次郎さん…っ」
 リョーガは快楽の奔流に押し流され、ただ嬌声を上げて揺さ振られていた。


   * * *


 開け放した入り口から流れ込んでくる清涼な空気に、淫靡な雰囲気が薄れていく。
 リョーガは酷使して気怠い体を投げ出して、傍らで煙草を吸う南次郎を見上げた。
「南次郎さん…」
「何でい?」
「アンタ、妻子いるのに…良かったのか?」
「…変な心配してんじゃねぇよ」
 ぐしゃぐしゃと髪を掻き回されて、リョーガは顔を顰めた。
「けど、倫子さんにバレたらぶん殴られそうだし、チビスケって結構潔癖そうじゃねぇ?」
「倫子は結構懐広ぇからな。意外と愛人との対決〜とか言って楽しむんじゃねぇか?それにリョーマだってもう、ガキじゃねぇんだ。何とかなるだろ」
「はははっ…根拠のねぇ話…ってて…」
 声を上げて笑うと腰に響いて、リョーガは微かに眉を寄せる。
 それでも、心に溢れるのは愛しい男に抱かれ、想いを寄せられたという悦びでしかない。
「お前の方こそ、居辛くなっちまったか…?」
 心配顔で見下ろされて、リョーガは不敵な笑みを浮かべて見せる。
「オレは越前リョーガだぜ?そんな小せぇ肝っ玉してねぇって」
 チョイチョイと手招きして、近づいてきた唇を素早く奪う。
「これからヨロシクな、共犯者サン♪」





Fin.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ