OTHER

□TENNIS(リョーガ受)
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『カラダ』

 鈍く痛む頭に顔を顰めながら目を開けると、本の中でしか見ないような、天外つきのベッドにリョーガは横たわっていた。
「…」
 肌に触れるのはジャージではなく、心地好いシルク製の寝巻き。
 ベッド脇に立てられた点滴の管を追えば、予想通り自分の腕に針が刺さっている。
 少し視線をずらせば、高価そうな調度品が趣味好く並べられていて…場違いな気がしないでもないが、居心地は悪くなかった。
(オッサンの船って訳じゃなさそうだな…ま、あの状況じゃ確実に沈んだだろうから有り得ねぇか)
 起き上がったリョーガは点滴の針を無造作に引き抜いて、床に降り立った。少しフラついたが、何とか歩けそうだ。
「さて…」
 ここが何処なのか、状況を知りたくて部屋を観察しながら出口に向かう。
 オッサン…桜吹雪彦麿呂は、本物の半分以下の値でレプリカを購入して飾っていたが、この部屋の主人は違うらしい。美術品に詳しい訳ではないが、この部屋にある物には桜吹雪の用意したようなイミテーションの雰囲気は感じられなかった。


 カチャ…


「アン?目が覚めたのか」
 リョーガが手を掛ける寸前、部屋の唯一のドアが外から開かれて、リョーガと同年くらいの青年が三人…室内に入ってきた。
「へぇ、こいつが例の?」
「ああ」
 一番後ろからひょっこり顔を覗かせたおかっぱ頭は、無遠慮にリョーガの頭から爪先まで興味津々と視線を這わせてくる。
「確かにあの生意気なチビにそっくりじゃん」
 自分にそっくりな面立ちの、生意気なチビ…物凄く心あたりのある形容だ。
「越前リョーマ」
「……」
 右目の下の泣き黒子と、鋭く蠱惑的な視線が印象に残る美人顔の青年が口にした名前に、リョーガは静かに反応を示した。
「ふん…知っているようだな」
「弟だよ。義理のな」
 裏側の世界に足を踏み入れた自分とリョーマの繋がりは、言葉にすれば簡単な事で…尚且つ強すぎる…身内の犯罪というリスクを引き出した。
 咄嗟に『義理』を強調すると青年は目を瞬いた後、くつくつと笑った。
「別にテメェをしょっぴく為に連れて来たんじゃねぇ…漂流してたから拾ってやったってだけの話だ。あのチビには何の影響もねぇよ。ああ、きちんと救出もされてるから安心しな」
 咄嗟に浮かんだ憂慮を嘲哢されたリョーガは面白くなくて、ちょっとした報復を試みる。
「そりゃあ、どーも。オレは越前リョーガ…アンタは?美人顔のオニーサン」
「変な呼び方すんじゃねぇ。…跡部だ」
「オレ向日。ンで、あっちが侑士」
 あっち、とおかっぱ…向日が指差したのは、リョーガの寝かされていたベッドの脇に膝を着いている最後の一人。
「…おれだけ名前かいな。忍足や。よろしゅう」
 立ち上がった関西弁…忍足は、リョーガが引き抜いた点滴を手にして肩を竦める。
「せっかくの点滴を途中で抜いてしもて…困ったじゃじゃ馬やな」
「アン?何だと…」
 眉を寄せる跡部の肩を、リョーガは叩いた。
「もう平気なんだって。それより、ここ何処だ?」
 もう一つ、訊きたい事があったがまずは現状確認が先だ。
「跡部の屋敷や。部屋は仰山あるんやから、そない急いで出て行かなくてもええで?」
「オマエが言うな」
 嫌そうに言う跡部に取り合わず、忍足はリョーガがさりげなく隠していた腕を掴み上げてきた。
「せやから、この血ィが止まるまでは居てもらおか?」
「ぅわっ…何、オマエ流血してんのっ?大丈夫じゃねぇじゃん!」
「揺さぶるなや、岳人。余計悪ぅなるわ」
 無理矢理に針を引き抜いた腕は、吹き出す程ではなかったがかなりの出血があった。
「痛っ…て…」
「止血や。我慢せぇ」
 腕を圧迫されて呻くが忍足は構わず、リョーガはベッドへと引き摺り戻された。
 思った以上に身体は弱っているのか、抵抗らしい抵抗もできないままベッドに放り投げられる。
「ぇ、跡部っ?―――侑士…っ」
 切迫詰まった向日の声に視線を向けると、跡部が顔を真っ白にしてドアに寄り掛っている。
「…岳人、とにかくこの部屋から連れ出したれ。執事さんにでも言って、冷でも飲ましたれば落ち着くやろ」
「忍足…そいつを…」
「わぁてるて。おれがちゃんと見張っといたる」
 忍足の請け負いを聞いて、跡部は部屋を出て行った。
「何だぁ?」
「こないスプラッタ見せるからや」
 スプラッタという程でもないのだが…跡部は血に弱いらしい。
「はん…オマエが見せたんじゃねぇか。オレは隠してたのによ」
「逃げようとしたからや。こんでお前さんに何かあったら跡部が自分を責める事になる。あのチビの…青学の関係者やとわかったら尚更や」
 不機嫌そうに尖った口調に、リョーガは内心首を傾げる。跡部の気分を害させた事に対する怒りから、少しずつ論点がずれてきている気がするのだ。
「わかったら大人しくしとき」
「嫌だって言ったら?」
 ぎし…とベッドが鳴って、忍足がベッドに乗り上げてきた。
 『止血』の言い訳が立たない、もう一方の腕もシーツに縫い付けられ、上から見下ろされる。
「逃がさへん。跡部を裏切る訳にはいかんのや」
「ふ〜ん…この状況を、あの美人さんに見られたらどうなるかねぇ?」
「……何の事や」
「滅茶苦茶浮気してるっぽくねぇ?オレ、嫉妬されて襲われちゃう?」
 リョーガはニヒルな笑みを浮かべて、現状の不自然さを揶揄した。
「……」
「さっき鎖骨ンとこにキスマークがあったの見えたけど、その様子じゃ別の相手がいるみてぇだな。オマエの片想いってやつ?可哀想に」
 自分を押さえ付けている男に少しでもダメージを与えたくて、わざと辛辣な言葉を突きつける。
「跡部ってやつ…あの顔だからモテんだろ。複数の男を手玉に取ってる淫乱でも驚かねぇぜ。なぁ、アンタ以外の男咥え込んでどんな風によがってるか、想像した事あんのか?」
「……いい加減にその口閉じたらどうや?自分の方が男咥え込んでんのやろ。ここ…ついてんで」
 かり…と軽く歯を立てられたのは、白い首筋……
「逮捕された桜吹雪っておっさんは、こっちの方でも罪状があるそうやないか。自分も飼われてたんとちゃう?」
 両手を頭上で一纏めにされ、寝巻きの前を開かれる。乱暴な手付きに、いくつかのボタンが飛んだ。
「仰山ついてるやなかいか」
「っ……」
 吐息に肌を舐められて、リョーガは小さく息を呑んだ。


 何人もの男に何度も貫かれ、快楽に慣らされた躯。
 リョーガの身体は抱かれる悦びに溺れきっている。
 桜吹雪がリョーガを手元に置いていたのは、テニスの腕とこの容姿…躯があったからだ。
 身体中に散らされた痕は、エキシビジョンマッチの前夜、桜吹雪につけられたもの。試合があるから、と最後まではされなかったが、濃厚に愛撫されて啼かされた後、口での奉仕を飽く事なく強制された。


「自分の方が淫乱なくせして、跡部の事侮辱するんやないわ」
 憮然とした、冷めた視線に、ふと…リョーガは船上で出会った男を思い出した。
「オマエ、何となくチビスケんとこの部長に似て―――」
 全てを言葉にする事はできなかった。
「―――」
 胸に鋭い痛みが突き抜ける。
 ギリギリと歯を立てられ、引っ張られる突起が千切れそうな恐怖に、リョーガは悲鳴を上げて背中を浮かせた。
「くっ…ぅ、痛……っ!」
 もう一方の突起は爪を立てられ、捻られ、形が変わる程に強く潰される。
 敏感な二つの粒に与えられる遠慮のない痛みは、体中を軋ませた。
「ひ、ぁ―――…」
 仰け反った喉がヒュウヒュウと鳴り、両の目から涙が伝い落ちる。
 歯と、爪と…それはまるで、小さな果実に食い込んでくる刃物。突き刺され、引き上げられる痛みに頭の中が真っ白になった。
 引かれる痛みに自ら身を起こそうとするが、シーツに縫い止められた両手がそれを阻む。背中を少し浮かせられただけでは、気休めにもならなかった。
 更に力を込めて食まれ…紅い突起は引き伸ばされ、充血する。
「っ…」
 唐突な開放に、リョーガの体は重力に従ってシーツに沈んだ。
「くくっ…あいつに似てる?それが何や、紛い物は紛い物でしかないんや…」
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