ONE PIECE

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『恋まで100歩』sample




「エースの奴、どこまで行ったんだよい」
 焦った様子もなく、気配も隠さず、足音が通り過ぎる。
 完全にその気配が遠ざかってからも、数分ほど待った。
(……そろそろいいか)
 気配を隠したまま、静かに立ち上がる。
 いつまでも一箇所にいられるとは思っていない。
 ここを出たら、逆にモビーディックが泊めてある海岸の方に戻って岩の陰にでも隠れて、マルコの裏をかくつもりだった。
 木箱の陰からそっと顔を出して、マルコの姿がないことを確認する。
 すると、路地の入口からいきなり生首が飛び出した。
「見つけたよい」
「どわあっ!」
 悲鳴を上げて、一目散に駆け出す。
(何で…!)
 マルコの気配は確かに一度遠ざかっていったはずだ。
 あの後気配を消して戻って来ていたのだろうか。
 エースがあそこにいることに気付いて。
 そうだとしたら、初めに気配を消していなかったのは、わざとなのだろう。
 動揺しながらも、近くにあった塀を踏み台に、立ち並ぶ家の屋根に駈け上る。しかし、顔を上げれば当たり前のように視線の先にマルコが立っていた。
「うをっ?」
 慌てて踵を返し、屋根から飛び降りたエースは、街のメイン通りを駆け抜ける。
 幼少から鍛えられていた足には自信があった。


 なのに。


 どこの角を曲がっても。
 どの店に逃げ込んでも。
 どこに行っても。
 必ず先回りしたマルコの姿があった。
(能力使ってんじゃねぇのか…ッ?)
 そう思って、上空を仰ぎ見るが、不審な影はない。振り返れば数メートル後ろを余裕の表情をしたマルコが追って来ている。
「く…そ…!」
 滅茶苦茶に走り回っていたエースは、気付けば海に面した断崖に追い詰められていた。
 息が切れる。
「そろそろ諦めないかい?」
 背後は海。
 悪魔の実の能力者にとって、海に飛び込むのは自殺行為。つまり、逃げ道はない。
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