12/29の日記

15:36
12月の兄さん
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アルフォンスが何かしてるなあと思いつつ、ソファーで長くなって久々にのんびりとした時間を過ごしているエドワードの元に、その何事かを終えた弟がやってきた。
よいしょっと、エドワードは起こされて、厚手の靴下を穿かされる。フリースの上着は首もとまでファスナーを上げられて、ダウンジャケット、ニットの帽子を深々に被らされて、最後に手袋で、漸く完了としたようだ。

その上毛布を用意して、アルフォンスもエドワードと変わらぬ身支度をした。バスケットを片手に、エドワードに手を差し出す。

「行こう、兄さん」

何処に?と尋ねても、まあまあとはぐらかされて、アルフォンスの運転する車は、人里を離れてどんどん走る。
月も無い夜なので、外は真っ暗だ。
オレ、もしかして捨てられちゃう?と尋ねれば、ステアリングを握る弟が笑った。

40分程、1人であれば心細くなる山道を走って出た広場で、車を停める。
車の暖房が程よく効いてきたところであったのに、アルフォンスが車外に出てしまって、1人その先に歩いて行った。
しばらくして戻ってきて、後部座席から毛布などを取り出して、小さなランタンに火を灯す。掲げてみせて、その灯りのように柔らかく笑い、アルフォンスがエドワード側の扉を開けた。

「さぶぅっ!!」

外は結構、風があって、一気に体温が奪われた。
思わず出たエドワードの野太い声に笑って、手にしていた毛布を頭からすっぽりと被せられる。

「足元に気をつけて、結構ごろごろしてるから。」

さっきは、兄を車に残して先に様子を見に行ったのかと思うと、何時もながら、弟のエスコートはそつが無い。
足元を照らすだけの灯り。
なるほど、石だらけだ。

そして、


「すげえ!!」

石造りの階段を上がり、大岩のひとフロアーはあるかと思う、展望台であろうそこに立てば、眼下に広がるのは、セントラルの夜景であった。
アルフォンスが肩をつついて、その指を空に向けて、ふうっと灯りを消す。

「ふあああ!」

空は、それ以上の星空であった。
故郷のリゼンブールに負けずとも劣らない素晴らしいものである。

「夜景も星空も、これくらい寒くならないとね」

手渡されたポットの中身は、アルフォンスが小鍋で煮詰めた甘い温かな特製ミルクティー。

「はあー、綺麗だな〜。寒いけど、ミルクティーも美味いし。いいなあ、こういうの。」

「よかった」

それから、体温の許す限り二人で眺めて、車に駆け戻った。
何故か、乗り込む頃には大笑いして、ひどく楽しかった。

「綺麗だったな!ありが…」

言い終わらないうちに、アルフォンスの唇が重なる。

「ここでも構わないんだけど、この兄さんのラッピングを解くのは、…温かなベッドの上でね。」

味見しちゃった、と、アルフォンスは車のエンジンをかける。
言葉を失ったエドワードの周りだけ、フロントガラスまで曇ったのは、きっと偶然ではないだろう。

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