12/28の日記
11:09
12月の兄さん
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それを見た誰もが絶句した。
普段、話をしたこともない者も、関わりの少ない部署で顔すら合わせたことの無い者も、すれ違った様に皆愕然とした表情を隠すことなく、親しい者ですら、初見では声すら失った。
「ーーーー!!」
普段冷静沈着であるホークアイですら、手にしていた書類を取り落としそうになったのは、他でも無い、デスクのマスタングの前に報告に立ったエドワードの姿にである。
その彼が事件の報告を済ませたところで、マスタングが口を開いた。
「君は、身体は無事なのかね?」
「何ともねえよ?ああ、ちょっと、軍服に穴が空いたくらい。」
本人はケロリとしたものである。彼の弟がいたなら、これどころの騒ぎでは無いが、幸いにも?本日は非番だ。
「大尉。」
「はい。」
マスタングが声をかけるよりも前から、何事か内線で人を集めていたホークアイが心得た様子でエドワードを隣室に促した。
その言葉少ないやり取りに、首を傾げてマスタングを見るエドワードに、もう書類に視線を落としてこちらを見ようとしない上官が、指先だけで、はやく行けと促していた。
原因は、エドワードの髪にあった。
今回の現場は軍の銃器を扱っている工場の火事であった。じっとしていられる質でない彼が、現場に飛び込んで救助に当たったというのは、想像に難くない。
で、繊細なそれは、現場を出る頃には、見るも無残なものに変わり果ててしまっていた。本人に怪我がないのは幸いであったが、美しいそれが失われるのは、いただけない。
よく見ると、表面と、テールになった束ねた毛先が酷いようだ。
そこで、急遽ホークアイにより、軍内の理髪店の人間であったり、美容師を目指したが軍人になった者、家業がそうであるもの、何よりも志を同じくした精鋭部隊が集められた。
エドワード・エルリックはやっぱりツヤツヤロングが一番だよね〜会の発足である。
「あ、面倒だから、ザクっと切ってくれていいよ」
「大佐は黙っていてください。」
ぴしゃりと、面々から気持ちの良い程にシンクロで言い放たれ、それらの面々に囲まれたエドワードは、自分の髪ながらも、小さく座っておく他ないようであった。
ちなみに、エドワード・エルリックはやっぱりツヤツヤロングが一番だよね〜会、略して「エドつや会」より、弟が引き継いで、その夜念入りにトリートメントを施されたことは言うまでもない。
次の日、その弟から、尽力してくれたメンバーに手作りのスコーンが振舞われたのだった。
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