08/30の日記

22:23
日常69(小話)
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「あれが君以外にいくつも臨床結果を出せば、検体1である君への監視は和らぐ。普通に大学に行き、普通の若者と何ら変わらない生活をしてみせ、逃げも隠れもしない『ただの人間』であれば、軍も暇ではないからな、いつか監視は解ける。」

いつかの兄の言葉が重なる。
アルフォンスの大学の編入用紙を広げ、穏やかに笑っていた彼の、胸の内には何があったのだろう。

『オレは、錬金術の研究ができる今の仕事に満足してるから、何の気遣いも無用だ。ゆっくり二人で普通の生活へのリハビリをしよう。』

雁字搦めに絡まった軍への干渉をひとつひとつ弟から解き、自らは更に強固に捕らえられながら、二人で普通の生活という甘い嘘をついていた兄。

「君の大学は、シンとの交流がある。軍の目が離れたら、『正式な』手続きを取って、君は留学する予定だった。君が優秀であったから、我々の思惑よりも早く、シンへの留学への話が出ていたがね。何れにせよ、あちらには、君らの友人がいる。保護の手配も済んでいるから問題はなかった。」

泣く訳にはいかなかった。
アルフォンスは、奥歯を噛み締めて堪える。

『プライマリースクールも出てないからさ、俺ら。無能の奴に言われてから気づいたのは、不覚だった。』

なぜ、ここで少将の名前が出るのだろうと、当時少し不思議に思っていたが、今ならわかる。

「勘違いするなよ、アルフォンス。そのシンには、エドワードも後から行くつもりだったはずだ。そのように準備をしていたからな。」

もう、コーヒーから湯気はない。カップに触れれば指先を温める程度だ。アルフォンスは、それを、口にする。
そんなことでは、この胸の中の嵐は収まりそうになかったが。

「エドワードには、もうひとつ秘密があったんだ。」

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