07/07の日記

08:00
日常70(小話)
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エドワードの、秘密。

「魂の混線について、あれから聞かされているかね?」

魂の混線。
旅の途中に、仮定として兄から聞かされた言葉。
あの時、それは空洞の鎧が震えるほどに魂を揺さぶった、曇天からの一筋の光明であり、誰のつけいる隙も無い兄と自分の強固な繋がりを感じさせる言葉であった。
門の前にいる魂の入らぬ我が肉体へ、魂の混線により、繋がりを持ち、兄によって生かされていたかもしれないという仮定。いや、実際に生かされていた。胎児のように、エドワードから与えられる命で繋がっていた。ひどく言いようもない優越感に似た安堵を覚えたことは、昨日のように思い出される。
それが今、こうしてマスタングの口から発せられて、まったく意味を違え、アルフォンスは冷たい刃で喉元を撫でられる思いだった。
強張ったアルフォンスの表情に、マスタングは暫し、押し黙った。

「……続けてください。」

辛うじて、語尾を掠れさせて告げ、アルフォンスは膝の上の拳を握りしめた。
マスタングは、大きくため息をついて、席を立ち、それから、暖炉の傍の造り付けてあるチェストから煙草を出し、アルフォンスに背を向けて火をつける。
「…煙草を、吸われるんですね。初めて見ました。」
「士官学校で覚えたよ。吸えない、飲めないでは、軍ではいつまでも若輩者扱いだからな。」
煙を肺に大きく吸い込み、ゆっくりと吐き出して、すうっと細く立ち昇る紫煙の先に目を細める彼は、普段見せるどの姿よりも大人の男の色気があった。
「ヒューズとヘビースモーカーを競ったんだが、あれが子供ができた時に、またこれも競ってやめた。だが、たまに無性に吸いたくなる時があってね。」

瞑目し、煙草を消すと、再びアルフォンスの目の前にマスタングは戻った。
そして、静かに話し始める。ここから先の話はエドワードからの堅い口止めがあったことを前置いて、静かに。

「母親を錬成した時、君は全身を扉の向こうに持って行かれた。」

あの瞬間の記憶は、忘れられるものではないが、酷く曖昧な部分があることも否めない。
錬成陣から光が溢れ、それが禍々しいものへと変わり、兄へと必死で伸ばした手は届かなかった。
身体が溶ける、いや、喪失、或いは分解。あれの感覚を表す言葉など自分は持たない。肌が泡立ち、アルフォンスは知らず身体を震わせた。

「エドワードは決して認めなかったが、敢えて私の言葉で言わせてもらう。君は、あの時、死の瞬間を迎えた。」

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