一号の唄

□ピッチャーの告白
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「阿‥部くん…!」
 最初は聞いているだけでイライラする声だった。だからピッチャーは嫌いだ、なんて何度ぼやいた事か。
 「どうした?」
 だけどいつからだろうこいつが俺の名前を呼ぶ声が無性に可愛く思えてきたのは。
「えっと…」
三橋はオドオドと目を泳がした。まったく、いつになったら普通にしゃべれるようになるんだ?
 「オレ…阿部くんの事‥好き…」三橋は耳まで真っ赤にして呟いた。
「それはずっと前に聞いてるからわかってるよ」まったく勘違いするから止めてほしい。
 「違っ!!…そうゆう意味の好き‥じゃなくて」阿部を必死に見つめた。
 久しぶりに胸の鼓動が速くなった。「じゃあどうゆう意味?」
 「あ、の…つ付き合って…ほしい」三橋は今にも泣きだしそうな顔だ。
そういえばオレ今告白されてんのか?
急に顔が熱くなってきた。 「阿部くん顔真っ赤‥」
「う、うるさいっ!」阿部はスタスタと歩きだした。後ろから当然の如く三橋がついてくる。
「それで…へ、返事は‥」 三橋はぎゅっと阿部の手を掴んだ。
三橋が触れている部分が妙に熱い。
オレは素直な気持ちを言っていいんだろうか。でもなんて言えばいいか分からない。こんな気持ち初めてなんだ。
「やっぱ気持ち、悪い…よ、ね?」三橋が俯いた。声が震えている。
「まして、オレみたいのなんか…」ついに泣きだしてしまった。
 「‥三橋」
言葉より頭より先に体が動いた。
優しく宥めるようにキスをする。
 「泣くなよ」 こいつの泣き顔を見ると辛くなる。
「阿部…くん?」三橋はきょとんとした顔で阿部を見つめた。
「気持ち悪くなんてない‥!」三橋をぎゅっと抱き締める。
こいつが可愛くて仕方がない。
「阿部くんも、オレのこと…好、き?」三橋は呆然と抱き締められていた。
「あぁ、…好きだよ」
「ホン、ト…??」
返事の代わりにまたキスをした。
「オレも大、好き」
三橋が勢い良く阿部に抱きついた。
「ったく…ホント単純なやつ」三橋の髪に顔を埋めた。なぜこんな幸せな気分になれるんだろう。そうかこれが恋なんだ。
オレはこの時生まれて初めて野球の神様以外に感謝した。

こんな幸せな場所に生んでくれてありがとうってね。
END...
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