BASARA

□六文銭
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「また来たでござるか」

「ごめんね、毎日」

「いいんでござるよ、そなたの気がそれで済むのなら」


自覚は無かったが、某はきっと悲しそうな目をしているんだろう、
目の前の彼女も寂しげに目を伏せた。

その彼女に何を言えばいいのか全く分からずにただ縁側に座る、
彼女の隣に腰を下ろした。

そろそろ甲斐に吹く風も暑さが引いていく頃になってきている。
この夜空も霞むことなく一面に星空をつくっている。
互いに黙り込んで空を仰ぐ。一言も交わさずに、ただ見ているだけ。
もしかしたら近辺の木の影に佐助が、哀れむような表情を浮かべ某を見ているのかも知れぬ。


「私、そろそろいかなきゃ」
「もう、でござるか」


ごめんねと呟く彼女の手を取る。
彼女はさっきから謝ってばかりで、謝る意味なんて有らぬ。
と言うとまた彼女はごめんと言った。


「もう会えぬ…のであろう?」
「寂、しいね」


彼女は泣かなかった。某も泣かなかった。
互いに言わずとも無論悲しみは、ある。


「また来世で会おうぞ」


いつも身に着けている六文銭を彼女の手に握らせる。
日に焼けている某の手とは違い、小さく、生白かった。
このような手に武器を持たせ、戦わせ、そして某を庇って散った。
 あんなに護ると言い結局達成できなかった自分への慰めと
彼女への申し訳の無さを込めて六文銭を贈ろう。
三途の川の渡し賃と、来世でまた会えるようにと願いを込めて。

「 」


そして彼女は唇に想いを乗せ消えていくのだ

六文銭
(さよならを込めて)







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