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『ッ…追われる方に回るなんて…』


暗黒に弾丸が飛び交う。月が大きく辺りを照らし出す。
スーツを着用した女は足を忍ばせて路地を走り抜ける。
当たりそうなぐらい足のギリギリ横に弾丸がめり込むが気にせず走り抜ける。


「なかなかやるな、ナマエ」


拳銃を持った帽子の男がそう言うと、路地の先の通りまで走り抜けたナマエは振り返った。


『殺されないように必死だよ。一流ヒットマンさん』

「リボーンと呼べと、いっただろ」

『敵を親しげに呼べるわけないでしょ』


乾いたようにナマエが笑うとリボーンはそれもそうだと拳銃を向ける。
サイレンサー付きの拳銃がナマエを捉えた。


「気に入っていたんだがな」

『私もあなたが好きだったよ、…とても残念だけど』


私も上からの命令だからさ、とナマエも銃を構える。
リボーンの黒い銃とは相対するナマエの白い銃。
二つが二人を狙い、引き金に指をかけた。


「こっちに来ないか」

『!…、…裏切れっていうの?』

「あぁ」

『馬鹿…本気でいってる?』

「…勿論。」


リボーンの真剣な瞳を見てからナマエはもう一度馬鹿、と呟いた。


『…好きだったと、言ったでしょ』

「気に入っていたと、言っただろ」


二人の間に微妙な空気が流れる。
二人は同時に引き金を引いた。
互いの弾丸を避け、撃ち、再び避ける。
まるで銃で会話するような攻防戦が続き、互いの弾丸が残り一発になった。


「賭けをしないか。死ぬか愛するかの、ラストゲームだ」

『あぁ、アレ。本当の、ラストゲームね』


よくやったよね、ロシアンルーレット。と続けるナマエ。
ロシアンルーレットとは、リボルバー式の拳銃に1つだけ実弾を装填し、適当にシリンダーを回して、こめかみに向けて発砲、それを交互、または順番にしていくというゲーム。
リボーンとナマエは音だけ鳴るようにした拳銃でよくやっていた。


『勿論パスはなし。』

「六回発砲したら確実に死んじまうから五回までだ」

『視認しないように互いが目をふさぐ』

『「異論なし」』


ルールを確認するとリボーンが近づいてきた。
ナマエは自分の銃を回転させ、リボーンが回転が止まる前に両手でナマエの目をふさぐ。
ナマエはこめかみに銃口を押し当て、引き金を躊躇なく引いた。
カチ、と音が鳴る。


『…はい。』

「…お前…、…」

『リボーンの、番よ』

「……」


何か言いたげなリボーンを無視して銃を渡す。
シリンダーを回転させ、ナマエが目をふさぐ。
こめかみにあて、一瞬躊躇うもリボーンも引き金を引いた。
再びカチリと鳴っただけ。
そんな緊張状態がもう二回ほど続いた。
つまり、あとは二回に一回で死ぬ。
確率は半分。50%。
ナマエのターン。


『……。』

「……。」


シリンダーの回る音が響く。
手の中の銃の回転が、止まった。
こめかみにあてる。
引き金が、なかなか引けない。


『…、』


ぐ、と指に力を込め。

パン。

実弾が、鳴った。
音が響く。
血が吹き出す。


『…っなんで、』

「…ぐっ、」

『なんでっ…』


それは、リボーンの左手からだった。
実弾を視認したリボーンはナマエが引き金を引く直前、目から手を離し、銃口を掴んで頭からそらした。
掌には風穴が開いて血がボタボタと滴っている。
リボーンの左手を持ち上げて手首をネクタイで縛るナマエ。


『なんで庇ったりなんか!』

「…っ好きだからだな、…」

『!…私はっ…私は死んでもかまわなかった!ファミリーを裏切れないしあなたを愛せないから!』


なのにっ、と叫ぶナマエに、リボーンは苦痛の表情を抑えて笑みを向けた。


「…ナマエが俺を裏切っても、俺がお前を愛してるのは…やっぱり変わらねぇんだ。
死んだら諦められるかと思った、諦めるしかできないと思った。
けど…俺が死んだらナマエを愛せなくなる。ナマエが死んでも諦められねぇし、死ぬのを見過ごすのはできなかった。
愛してるからだ。」

『っ…馬鹿…馬鹿…』


涙を零すナマエ。その頭を右手で撫でるリボーン。
ごし、と腕で涙を拭くとナマエはリボーンと視線を合わせ、短く優しく唇を重ねた。


「…ナマエ、」

『……、裏切ることはやっぱりできないから、脱退してくるよ。必ず戻ってくる。
だから待ってて…』

「…あぁ、待っててやる。…必ず戻ってこい」


もう一度だけ短く口づけを交わし、二人は別れた。
きっと会うだろうその日までを約束しての口づけ。

数年後、彼らは約束を果たし、式を上げた。


end
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