□貴方に譲ってしまった。私は壊れてしまった。
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「…早く殺し合いをしよう」

『いや……です…』

「君の意見なんか聞いてないよ」


雲雀さんはトンファーを構え、勢い良く此方に向かい走り出した。
私は動けないし動きたくはない。戦いが嫌いだから…そんな戦う気が無い私をお構い無しに、雲雀さんは殺気を含んだ笑みを見せながら至近距離まで詰め寄り私にトンファーを振りかざす。
私は瞬間、頭に《殺》の字が浮かび上がった。何故だか分からなかった、今のこの状況に近い状況に陥ることはあったけれど、そんな事を感じることはなかったのに。
そして、鼓動がどくん、と高鳴り私の意識が薄れる。
意識は、飛ぶのではなく…薄れた。
今までにはなかった。今までは完璧に意識は跳び、気付いたら辺りには無残に殺された、否、私が無残に殺したであろう死体達。
けれど今回は、うっすらとでも意識がある。雲雀さんは振りかざしたトンファーを私目掛けて振り落とした。すると、


「……!?」


私の意思を無視して勝手に手がトンファーを掴んだ。雲雀さんが少し驚いている様子で私を見て、今のでうっすらとしていた私の意識がハッキリとする。
けれどカラダは全くと言って良いほどに言うことを聞かず、私のものではないかのよう…そして、私は勝手に話し出す


『「………いい武器を、お持ちのようね。」』


別にそんなこと、思ってはいないのに私の口は動く。
本当の私は真っ白い空間の中で座り込み、四角で大きく、黒縁で囲まれた私視点のムービーを見ている。
そう、白で統一され間隔のわからない部屋で座り込み、映画館のスクリーンで映像をみている感じだ。
そのスクリーンに映し出されているのは驚き顔の雲雀さんと雲雀さんのトンファー、私の手。
雲雀さんの声は普通に聞こえるのに、私が話す時は、頭に響く。


「…君、猫かぶってたの?」

『「まさか。あの子はミョウジ ナマエ。私はみょうじ なまえ。」』

「…なまえ?ナマエとどう違うの?」

『「ナマエも聞きたがってるし教えてあげる。私はナマエだけどナマエじゃない。
そうね、普段のナマエが表のミョウジナマエで、今の私が裏のみょうじなまえ。」』

「…意味わからないよ。要は二重人格ってこと?」

『「…表のナマエは優しくて友達想い。裏のなまえは醜く残虐。」』

「だから二重人格でしょ」

『「違う。私達は一心同体だけど一心同体じゃないだけ。二重人格は別物の人格」』

「…分かり易く言いなよ」

『「隠されたもう一人の私。私であって私じゃない。」』

「……後でゆっくり聞くさ、いまは、存分に咬み殺す」


トンファーを構え直す雲雀さん。
…モウ一人ノ私?私であって私じゃない。駄目だ、意味が分からないよ―…すると、なまえはまた言う


『「あら、私がこんなに喋るのは初めてなのに。」』


雲雀さんは「関係無い」とでも言うかのようにトンファーで攻撃。なまえは避ける。
やめて、やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてっ…!!やめてっ!!!!
戦わないで、傷つかないで!!

私が頭を抱えて叫んでいると、血が噴き出す音。顔をゆっくりと恐る恐る上げ、スクリーンを見る。そこには…


『ひ、ば…り、さ。』

「……ぅ………」


血まみれの雲雀さん。こんな短時間に…。
雲雀さんの私から見える所には青あざ。きっとなまえがあの鉄パイプで雲雀さんを殴ったのだろう、鉄パイプには新鮮な赤黒い血が沢山ついていたから。



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