「さっきのヤツ、誰?」
「サークルのヤツだよ。」
「へぇ、フットサルに女いるんだ。」
「マネージャー。」
「すげぇ楽しそうに話してたよな、俺と話すときより。何の話?」
「別に何でもいいだろ。」
面倒くさそう。
「風呂行ってくるわ。」
銀時はバックを置いて、風呂場へ行ってしまった。
自分でもよく分かってる。
俺は面倒くさいヤツ。
嫉妬心、独占欲が人一倍強い。
そんな自分が嫌なんだ。
ドサッとソファーに倒れ込むと、あるものが目に入ってきた。
棚の上に立てかけてある小さな写真。
そこには、まだあどけない表情をした俺と銀時が笑顔で写っていた。
俺は中学になって、引っ越しを機に転校した。
人見知りで、コミュニケーションがうまくとれない俺に、いろいろと教えてくれたのが銀時だった。
それから同じ高校に行き、当たり前のように、同じ大学へ進んだ。
同棲しようと言ってきたのも銀時だった。
すごく嬉しかった。
あの頃は何も考えなくても、ただただ楽しかった気がする。
あの頃に戻れたら…。
――――…
気がつくと、俺は布団で寝ていた。
隣には、すやすやと眠る銀時がいた。
あぁ、そっか。
俺あのまま寝ちゃったのか。
だから銀時が布団まで運んでくれたんだ。
「ありがとう、銀時。」
昨日は、俺が機嫌悪くしちゃったのに、銀時は優しい。
ふわふわな髪をそっと撫でる。
少し、銀時が微笑んだ気がした。
時計を見ると、朝の6時53分をまわっていた。
いつもより少し早いが、俺は大学に行く準備を始めた。
銀時は受講する科目が11時からなので、まだ寝てて大丈夫。
さっさとシャワーを済ませ、適当に朝食を食べると、部屋を後にした。
ちゃんと銀時の分の朝食も作って。
大学へは電車で20分。
人混みが辛い。
改札を抜けて2分も歩くと、大学につく。
廊下を通り、教室に入った瞬間、声をかけられた。
「うっす。今日も早いねぇ。」
沖田総悟。
俺とおんなじ科目を選択しているヤツだ。
「お前もな。」
こんな俺に毎朝声をかけてくる。
変なヤツだ。
するとまた声をかけられた。
「おぃっす。ぼーっとしてねーで早く荷物ロッカーに入れてこいよ。」
コイツは土方十四郎。
ずーっとタバコばっか吸ってやがる。
「おう。」
こうやって、声をかけられるようになったのも銀時のおかげ。
いろんなとこで支えてくれてる。
なのに俺は…。
――――…
「雨、降りそうだな。」
今日の授業が終わり、俺は土方と沖田と靴箱にいた。
雲行きが怪しい。
俺は一応、ロッカーに傘を置いてるが、銀時は持ってるだろうか。
「雨降り出す前に帰りやしょう。」
「そうだな。ほら、高杉行くぞ。」
足早に歩き出した2人に、俺はついていかなかった。
「高杉?」
「わりぃ、先帰ってくれ。ちょっと銀時待っとくわ。」
「ひゅ〜お熱いねぇ〜。」
「そっか、気ィつけて帰れよ。」
「おう。じゃあな。」
「じゃあな。」
「さいなら〜。」
俺は2人に軽く手をあげ、靴箱にもたれかかった。
周りからは「仲良し」に見られてるのかな。
実際、今の俺らは全然お熱くない。
どっちかってーと
「冷え冷え…。」
「何が?」
「っ!?」
振り返ると、ジャージ姿の銀時がいた。
「銀…。何でもない。」
「どうした?帰らないのか?」
「いや…。」
「ん?」
「雨…降りそうだから。」
「傘持ってないの?」
「俺は…持ってる。銀時が持ってないかもって思って、待ってたてたけど…今からフットサル?」
「ああ…ごめん。」
「いいって。」
「俺が帰るころには止むだろうし、降り出す前に帰りな?」
「うん…。」
そうだよな。
バカみたいに銀時待ってるなんて…笑える。
「じゃあな。」
そう言って俺は歩き出した。
やっぱり土方たちと帰れば良かった。
じめじめした風が吹き始め、空は今にも泣き出そうとしていた。
――――…
PM:9:46
家についてすぐに降り出した雨は、緩むことなく降り続けている。
「銀時…大丈夫なのか?」
いつもより帰りも遅いし…。
電話をかけても繋がらない。
さすがに心配になった俺は、2つ傘を持って家を出た。
銀時…もしかしたらどこかで雨宿りとかしてんのか?
でもこの雨だと朝方まで降りそうだし…。
俺は足早に駅に向かった。
すると、ちょうど角を曲がったその時、見覚えのある服が目に入った。
「銀時…。」
俺は安堵と同時に、銀時に駆け寄ろうとした。
だが…
パステルカラーの傘。
右に向いた銀時の楽しげな目。
同じ傘に入る…あの女。
そこには笑い合う2人がいた。
「―――ッッ」
引き返そうとしたが、体が動かない。
銀時と目が合った。
「晋助…。」
銀時は少し焦った顔をして俺の名前を呼んだ。
「誰?」
女が銀時に聞く。
そんなに銀時に寄るな。
銀時の袖を掴むな。
「銀時の友人です。」
思わず口に出た言葉。
「あ、そうなんですか。私はフットサルのマネージャーです。」
にこりと笑う可愛らしい顔。
銀時と似合ってるよ。
俺なんかより、ずっと。
「じゃ、お邪魔みたいなんでこれで。」
軽く会釈をして角を曲がると、俺は走った。
惨めな自分。
バカで、可哀想だ。
こんな俺を見てどう思った?
…銀時。
なぁ、
滑稽だったか?
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